第6話
ユキネがゲーム開始の合図を告げて数分後、利子は一人の男に声をかけられていた。
「ねえねえ、君さ、俺と勝負しない?」
「……私、ですか? でも、このゲームで負けたらって思うと、中々怖くて動けません」
「それはそうなんだけど、実は俺さ、こういうのめちゃくちゃ弱くてさ、だからパッと見た感じ君になら勝てるかなって思ったんだよね」
「…………」
その男の言葉に利子は苛立ちを露わにして、まんまと挑発に乗ってしまった。
「いいですよ! やってやりますよ! 後悔しても遅いですからね!」
「……ふっ」
男は利子の出した合意のサインを見逃していなかった。
「じゃあ行こうか」
互いの合意の元にゲームが始まる。
ゲーム会場は小さな客室を利用して行われる。中に入るとそこには一つのテーブルに二つの椅子が対面に並べられている。
その他にはチェス盤やトランプなどゲームに使用する物が置いてある。
その中から男が手にしたものはトランプであった。
「自己紹介がまだだったね、俺の名前は
「私は白戸利子」
「利子ちゃんね、よろしく。早速だけどブラックジャックって知ってる?」
「まあ、一応知ってますけど」
「俺さ、それしかできないからさ、それでいい?」
「はい、構いません」
勝負内容が決まると、二人は机に置かれている機械にデバイスをかざした。
今この瞬間に白戸利子対飯島流星の生死をかけたゲームが始まる。
「DEAD OR ALIVE」会場
今現在、利子と飯島流星の生死を賭けたゲームが行われている。
勝負内容は「ブラックジャック」
ディーラーは飯島流星が行うこととなっている。
その様子を利子は眺めながら、何か気になることがあるのか、唐突に声をかけた。
「……なんか、妙にシャッフル上手くないですか?」
その言葉通り、飯島流星は手慣れた手つきでカードをシャッフルしている。
「え? そうかな? 少し器用なだけだよ」
「そうですか……」
そう言うと、利子は視線を外しデバイスに何かを打ち込んでいる。
「俺からもいいかな?」
「……なんですか?」
「この会場に来てからずっと何をデバイスに打ち込んでいるのかな?」
「いえ、別に大したことでは無いですよ。私は頭が悪いから気になったことを忘れないようにしているんです。例えば──あなたが異様にシャッフルが上手いとかね」
「へ、へえ」
利子の鋭さに少し動揺を見せた飯島流星だが、すぐさまシャッフルに戻る。
「じゃあ始めるよ!」
勝負が始まり、二人は互いに拮抗するゲームが繰り広げられていた。
飯島流星が言い放ったこれらの賭け事が苦手だという言葉通り、画面越しにゲームを観戦している参加者にもそれが伝わっていた。
「じゃあ、これが最後だね」
「はい、互いのチップは五分、これで勝った方がこのゲームの勝者になる」
そして、最後のカードが配られた。
利子の持ち札はキングとクイーン。ブラックジャックに次ぐ強ペアをこの土壇場で引き寄せたことに利子は笑みを浮かべるのを堪えていた。
「で? 利子ちゃん、ヒット? スタンド?」
「スタンドで」
「ということはかなりいいペアなんだね、まあ俺もスタンドなんだけどね」
そう言うと飯島流星は持ち札を手に取り勝負に出る姿勢を取る。
互いにスタンドのコールをし、勝負に出る──。
「私は二十です!」
自信満々にカードを場に出す利子。しかし、全てを覆すかのようなニヤリとした顔付きで飯島流星が場にカードを出す。
「悪いね、二十一。ブラックジャックだ」
「──え?」
驚きのあまり身動きが取れなくなっている利子。それもそうだろう、最後に配られたカードで、まだ残り数枚のカードが眠っているにも関わらずブラックジャックを引き当てるのは一体どんな強運を持ち合わせたら可能なのだろうか。だが──利子の脳裏に一つの疑念が浮かんだ。それは──。
「待ってください! イカさまじゃないんですか⁉」
そう、イカさまだ。ルール4ゲーム中の不正発覚は直ちに敗北と処す。このルールがある限りイカさまが露見されれば即敗北なのだが……。
「証拠は?」
「……証拠?」
「そう、俺がイカさました証拠は? それに、ルール内容はちゃんと理解しないとダメだよ?」
「えっと、どういう意味ですか?」
「ルール4ゲーム中の不正発覚は直ちに敗北と処す。そもそも俺が本当にイカさまをしていたのだとしても、利子ちゃんが気付いた時には既にゲームは終わっている。つまり、ルールは適用されない。残念だったね」
「…………」
このゲーム、明らかにイカさまだとしてもそれを立証できなければ意味がないのだ。
これは刑事事件にも言えることなのだが、どう見ても犯人なのに犯罪の証拠がなければ逮捕することができない。
利子はその忠告に己の不甲斐なさを噛み締める様に強く唇を噛んでいた。
第一ゲーム勝者・飯島流星。
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