第4話
利子たちを乗せた船が動き出し、暫くの間がもたらされている。
先程のルール説明が終わると同時に黒装束の男等が現れ、所持していた私物を全て没収されていた。その代わりに、どうやらこのゲーム専用の端末と思われるデバイスを渡された。通話やメールの機能は使えないが、どうやらメモは取れるらしい。
船上の中に会話はなく、殺伐とした空気が流れている。それもそのはず、この中に居る全員が敵であり、自分を殺しにくる危険があるからに他ならない。
そんな中、利子は終始デバイスに何かを打ち込んでいる。
「ねえ、あんた、年幾つ?」
「…………」
突然話しかけられた利子は言葉が出ず、その声の持ち主に視線を向けている。
利子に話しかけたのは利子と同じくらいの年頃の少女であった。
「何、無視?」
「あぁ、ごめん、驚いちゃって。あたしは十八だけど、君は?」
「へぇ、私と同い年か。よかったよ、あんたも訳アリなんだろうけど、こんな空気耐えれなくてさ。あ、
水瀬未来──少し荒っぽい口調に似合わない可愛らしいクリっとした瞳、茶髪がかった背中辺りにまで伸びた髪、綺麗な細く白い足をした少女。
「……よろしく、あたしは白戸利子」
一瞬戸惑うように困惑している利子を他所に、未来は更に口を動かす。
「ねえ、一つ提案があるんだけど……私とあんたで手を組まない?」
「…………」
その提案に利子は素直に応じることができずにいた。それもそうだろう、出会ってわずか数分の見知らぬ相手に自分の命を預けるのと相違ないことなのだから。
仮に、百歩、いや千歩譲って協力関係を築き上げることは間違いではないと利子も思っている。自分にとっても信頼が置ける懐刀はそれだけで必勝のパターンが何倍にも膨れ上がることを利子も重々承知だ。
けれど、それをまさか、こんなに出会ってお互いの人柄、癖、思考を読めていない段階でこの交渉はあまりにも……愚かな行為だった。
(……いやいや、ないでしょ! 普通にただのゲームならそれもまた一興かもしれないけど、これはそうじゃない。一手でも間違えば確実な「死」が訪れるのだから。それに……これに関してはすぐには判断できない)
少しの間を以て、利子は即座にデバイスに何かを打ち込み始めていた。
(取り敢えず、時間を稼がなくちゃ……)
「ま、まあ? 悪くはないと思うんだけど……」
「ほんと⁉ じゃあ──」
「でも、少しだけ待って欲しい。正直、即決はできない。せめて最初のゲームが終わるまで待たせて欲しい」
「……そりゃあそうよね。うん、わかった良い返事期待してるよ」
そう言うや踵を返していく未来をただ無言のまま送り届けた。
利子はそんな背中を見ながらこうも思っていた。
──何故、そうも平然としていられるのかと……。
今しがた誘いを断られた未来は口元を両手で覆い隠しながらも目元が笑んでいることを如実に表していた。
「例え、どんな手を使っても絶対に生き残って見せる」
その瞳には並々ならぬ執念のような物すら感じ取れた。
各々が胸に秘めたる思いを他所に、無慈悲にも最初のゲーム開始のアナウンスが響き渡る。
「皆様、お待たせいたしました。まもなく、第一ゲームが始まります」
アナウンスが鳴り響き終えると、その場に居る全員の顔色が変わった。
ついに始まるのだ。
自身の命を掛け金にした、生きるか死ぬかのデスゲームが今──。
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