第3話

 利子を乗せた車が高速を降りて暫くしたところで、港に辿り着く。


 そのまま利子を車から降ろし、船の中に連れて歩いて行く。


 ほどなくして、利子は目隠しから解放されて眼前に広がる光景に目を奪われていた。


 そこには見たことも会ったこともない見知らぬ顔が全部で五つあった。


 明らかに自分と同い年に見える若い女、自分よりは少し大人な雰囲気がする青年、あとは見るからに四十代半ばかそれくらいの男が二人、そして、見るも無残な明らかに自分とであろうおじさんが居た。


 他の人物らも利子が現れたことにより、視線が不思議と利子に集まる。


 利子を見る視線が三者三様に変わっていく。利子を注視する者も居れば、利子を見て口元をにやつかせる者も居る。


「あぁ、なるほどね。もう──


 利子はそう言葉を漏らす。おそらく、自分は聞かされていないけれど、他の彼等はここが何をする場所なのかを知っているのだろう。そして自分に与えられた判断材料はただの一つ……ゲームで人生を変える。その一つだけだった。


 より一層殺伐とした空気の中、その流れを変える者が現れる。


「ようこそお集まり頂きました。私はこのグループを担当させていただきますユキネと申します、以後お見知りおきを」


 そこに現れた女性は、黒く綺麗な髪に、整った目鼻立ちに、大きな瞳はなまじ美人なだけあって迫力のある眼光に見える。


「皆様にはこれより、人生を賭けたゲーム《DEAD OR ALIVE》に参加して頂きます。なお、この段階でゲームを降りられるようなら今のうちに、私の説明を受けて以降のゲームから降りる行為はできなくなりますのでどうかご容赦を」


 なおも、ユキネの言葉は続き、


「では、誰もいらっしゃらないということで、只今を持ちましてゲームの説明に入らせて頂きます。このゲームでは、その名の通りです。借金を抱えている方はこのゲームをクリアすることで借金は無くなり、それどころかゲームクリア時に所持している金銭は全てご自身の元に贈られます」


 その言葉にその場にいる全員の顔がにやりと歪んでいた。が、しかし、こうも上手い話には決まって──裏がある。


「もう、皆様もお気づきでしょう? そう、これはゲーム。そして我々はそれを運営している、皆様が一方的に儲けては我々も運営ができない。ARIVEは皆様がゲームをクリアした時、では──DEADは何があるでしょう?」


 ユキネの口元が不気味な弧を描いている。その表情にその場に居る全員が一歩後ずさりしていた。


「もし、万が一にも、皆様がゲームに敗北した場合は……こちらをご覧ください」


 ユキネが手を指し伸ばした方に一同の視線は集まる。


 そこに映し出されたのは、数々のモニター、そして顔は見えないがモニターの先に人の影が映っている。


「ここにおられます方々は、この運営に助力をして下さっている各国のVIPの方々です。もうお気づきになられましたか? 我々がどうやって運営費を維持していくのか……」


 その言葉を受けて、ようやく理解できたのだろう。


 そう──。


「ゲームに敗れた方は、こちらの方々の生涯奴隷となりますので文字通り皆様の「死」を意味するものと捉えていただいて構いません」


 ユキネの説明が終わると同時にその場の全員が一斉に抗議の念を訴えかけている。


 そんな中、一人だけその場で立ち尽くし物思いに耽っている人物がいる。


 白戸利子だ。


(こんなことってあるんだ、どうせこのままつまらないクソゲーの中で死ぬくらいなら、文字通り死ぬか生きるかの瀬戸際でゲームで人生変えられるなら、やらないなんて選択しないよね? 例え何があろうと絶対に「勝利」しかあり得ないんだから)

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