第7話 家族にダンジョンがバレました
夏休みが始まる2日前。それまでの10日間、平日は放課後の1時間、土日は6時間ほどダンジョンに潜り続けた千尋。時間経過が遅いダンジョン内時間で実に150時間をレベル上げに費やした。
1層の1体当たり100の経験値しか得られないモンスターだけをひたすら倒して、累計の経験値は218200に達していた。
集めたマグリスタルの買い取り価格も21万8200円相当に上るが、千尋はまだ
そして、レベルは14まで上がった。
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本庄千尋 女 14
Lv14
経験値:218200/250000
種族:人
属性:―
HP:190(+135)
MP:228(+162)
STR(腕力):34(+24)
DEF(防御):30(+21)
AGI(敏捷):46(+33)
DEX(器用):61(+43)
INT(知力):57(+40)
LUC(運):53(+38)
スキル:なし
EXスキル:魔王礼賛
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■収支:+21万8200円
レベル10を超えた時点で、EXスキルの説明が変化した。
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EXスキル:魔王礼賛
魔王のように振舞えるスキル。
Lv1:感情が昂ると目が赤く光る。相手を一定確率で威圧。
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ただの面白スキルではなかったようだ。
各ステータスが上昇して分かった事だが、ダンジョンの外ではレベルアップの恩恵は少ししか感じられなかった。だがそれは事前にネットで調べて分かっていたので落胆はない。少しとは言え体は軽いし以前より力もある。
1層はほぼ調べ尽くしたが、まだ行っていない「隠し部屋」が1つだけあった。隠し部屋にはレアアイテムがある事が多いが、同時に強力なモンスターがそれを守っている可能性が高い事はネットで調査済み。アイテムに興味はあるが、もっとレベルを上げてから行くべきだと判断した。
1層には、アボカドとブロッコリーのほか、ミニトマトやレタスといったお野菜系のモンスター、それに卵を飛ばすニワトリのモンスターがいた。卵は飛んで来ても割れないが、自宅に持って帰ると普通に割れて美味しく頂けた。
毎日大量の食材を持ち帰る千尋に、母と妹は大いに疑念を抱き、追及される。その結果、千尋は割と簡単にゲロった。
「千尋ちゃん? お母さん怒らないから本当のこと話してくれる?」
母・鈴音が微笑みならが問い掛けるが、目は笑っていない。
「お姉ちゃん……まさか万引きとかじゃないよね!?」
両手一杯の野菜を毎日のように万引きして見逃すスーパーがあったら見てみたい。
二人の前に正座する千尋は、俯きながら白状した。
「じ、実は……ダンジョンを見付けました。あの野菜や卵はそこで手に入るのです」
「「ダンジョン!?」」
母と妹から同時に聞き返されたが、そのテンションは全く異なる。母はダンジョンと聞いてもよく分かっていないようだ。もしかしたら新しいスーパーの名前とでも思っているかも知れない。一方妹の萌の反応には羨ましさが滲んでいた。
千尋はこれまでの事を話した。二人にいい暮らしをさせたくて小5からダンジョンを探していたこと。先日、近所の神社にダンジョンが出現し、千尋が仮所有者になったこと。そこでは何故か野菜や卵をゲット出来ること。安全第一でレベルを上げ、現在レベル14になったことなど。
「お姉ちゃん! 私も! 私もダンジョン行きたい!」
萌がこう言い出すことは予想していた。千尋は困った顔で母を見る。
「うーん……ダンジョンって危ないんじゃないのぉ?」
「……危険はあります」
「だったら萌ちゃんにはまだ早――」
「私、気を付けるからっ! お母さん、お願い!」
母の言葉を遮って、萌が胸の前で手を組みウルウルした瞳で母に懇願する。
母は千尋がダンジョンに潜ることについては否定も肯定もしなかった。事実、ダンジョンに毎日潜っても怪我一つなく無事に帰って来るし、大量の食材も持って帰ってくれる。家計には大助かりである。
「母上、私は氏神様からかなり良い装備を頂きましたが、萌が使える装備を入手出来たら、必ず私が同行するという条件でダンジョンに潜ることをお許し頂けないでしょうか」
千尋が萌に助け船を出す。いずれは萌も連れて行きたいと思っていたのだ。
「うーん、その『装備』っていうのがあれば安全になるのぉ?」
「何もない状態に比べれば遥かに」
「そう……禁止して勝手に行かれるよりはマシかしらねぇ」
「萌がダンジョンに潜ることになったら、私が必ずお守りします」
「お姉ちゃんっ!」
「分かったわ。ただし、その『装備』が見つかってからよぉ?」
「「はいっ」」
萌の装備。千尋は「隠し部屋」にあるレアアイテムの事を考えていた。
ダンジョンは仮所有者の想いや願いが反映される。もしかしたら、隠し部屋のアイテムで萌の装備をゲット出来るかも知れない。
そう考えていた千尋だが、願いは別の形で叶う事になる。
午前中で終わった終業式の帰り、千尋は当然のように神社にやって来た。
「千尋ちゃん、待ってたよ!」
「うーちゃん様?」
「千尋ちゃん、第1層に『イレギュラー』が出た」
「イレギュラー?」
「そう。本来このダンジョンには出現しないモンスターだよ」
「えーと、つまり?」
「イレギュラーは他のモンスターを殺す。放っておくと勝手に増殖してしまう。第1層は本来弱いモンスターしか出ないんだけど、イレギュラーは結構強い」
「……攻略が難しくなる?」
「もしダンジョン全体にイレギュラーが広がると、手を付けられなくなる」
それは困る。非常に困る。
「私にそれを仰るということは、うーちゃん様は手出し出来ないということですね?」
「察しが良くて助かるよ」
「今の私で勝てるんでしょうか?」
「頑張れば、まだ何とかなると思う」
歯切れの悪い答えに不安が過る。だが、ここは私のダンジョンだ。やっと見付けた私のダンジョン。それをイレギュラーとやらの好きにさせることは到底容認出来ない。
「頑張ってみます」
「ありがとう千尋ちゃん。気を付けてね、奴らは第5層以上の強さだから」
「奴
「今確認出来てるのは2体だ」
今まで1層で相手にしていたお野菜達とは全く別次元の強さと考えるべきだろう。それが最低でも2体。千尋の背中を冷たい汗が伝う。
やるしかない。だってここは私のダンジョンなんだ。私以外に頼れる人はいない。
千尋はセーフティゾーンで手早く着替え、装備を身に着けた。氏神は気を利かせて背中を向けている。その間、「イレギュラー」について説明してくれた。
イレギュラーの発生は稀で原因はよく分かっていないが、一番可能性が高いのは「仮所有者に対する憎悪の感情」から生まれるという説らしい。
自分に対する憎しみと言われるとドキッとするが、千尋に思い当たるのは大神兄弟くらいしかいない。あの兄弟のどちらか、または両方が千尋に憎しみを抱いている可能性は高い。その負の感情がダンジョンに「イレギュラー」を生み出す。
「もし誰かの憎しみが『イレギュラー』を生み出したとしたら、そいつにはちゃんと制裁が課されるけどね」
「そうなんですね」
「仮所有者がちゃんと決まっているダンジョンに干渉しようとするのは
「なるほど。ですがまずはイレギュラーとやらの対処が先です」
「うん。千尋ちゃんの言う通りだね」
「では行って参ります」
「気を付けて」
背中に氏神の言葉を受けながら、千尋は急傾斜の坂を駆け下りた。
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