第4話 4月の3「クラブオリエンテーション」
夕方、学校の帰り。
駅前の桜は、何本か満開のピークをこえて、花びらを風に飛ばしている。
俺はチャリを押して商店街に寄る。きょうのおかずは肉屋のコロッケと、メンチカツ。親父は帰りが遅いから2つ減らさないといけない。
揚げたて待ちの列に、この前まで同じクラスだった男子が三人いた。彼らは、野球をやっていて、高校も揃って甲子園に出場経験がある名門私立にすすんだ。校則か野球部の規則かで、髪はみんな短く刈りあがっている。
「よ」
「お! 竜ひさしぶり! 卒業式以来やな」
「おお! なんかはじけてね、その髪」
「おおお! もう新しい彼女できた?」
「三人揃ってやかましいわ」
俺や三人は、中学の放課後、この肉屋の前でよく会って、いっしょにコロッケを食いながら帰ることもしばしばあった。ここのコロッケは飯で食っても、揚げたてを歩いて食ってもめっちゃうまい。
俺は抜け目なく「中学で彼女がいたとか、ガセ」とはさんでおく。
「ところでもう部活始まってんの? かばん、かっこええやん」
三人はピカピカの学校の野球部バッグを足元に並べている。自転車の前かごに入らないサイズだ。
「ああ、もう練習してる」
「はや」
「竜は何やるの?」
「……俺?」
三人のコロッケができて、俺が次に家族の分を頼む。三人がはふはふ食っていて、俺はそういえば、と気づいた。
……部活か……
「まだ決めてないんやけど、なんか、みんなに嫌われ……ドマイナーなやつとかしたいかな」
新たな作戦がこのとき始まった。
***
「銀河学園の部活オリテ、ですか?」
「そそ、新入生向けにそろそろあるやろ」
翌日、俺は倉田にその作戦内容を調査してもらおうと話を向けた。
「あったあった」
倉田は学校の行事カレンダー(クラウド共有)を探してくれた。これもスマホで取り込めるらしいが、このまえようやくメールの設定をしたところなので、段階的に教えてもらおうと思っている。
「明後日ですね。自由参加で--行かない人はタブレット端末の自習、と書いてます」
入学したときに、紙の教科書といっしょにもらった、タブレット。倉田いわくなんとかかんとかのCPUでメモリはいまいち、多少もっさりはするが、教科書アプリには十分だとか。これの使い方とかの自習タイムか、部活オリエンテーションか、か。
「なあ倉田、一番入部者の少ない部活って調べられる?」
俺は、昨日口にしたように、ドマイナーな部活、つまり人数が限りなく少ない部活を選択しようと考えていた。
「任せてください! 学生に開放されているグループウェアのフォルダに、たしか一覧表がありました!」
倉田は家から持ってきたキーボードを、なんかよくわからない延長ケーブルでタブレットにつなぎ、ガガガガとタイプしはじめる。
「出てきました! 全256部活中、5人以下は236です! 具体的な人数はマクロ組まないと出ないですけど、調べますか?」
「いやちょっと待って」
俺は倉田がその数字をスルーしていることにまず突っ込みたかった。いや高校で部活の数が300近いってどういうことなの? 全校生徒、1000人いなかったよね?……この学校、何なん?
「せっかくなんで部活名一覧も見ます?」
倉田はタブレットをこっちに向けてくれた。スポーツ関係はほぼないとのことで、文芸部とかの文科系、コンピュータ部とかロボット部とかの理系、漫画研究部などの芸術系、そのあたりはまだ理解できたものの。
盆栽、フルーツサンド、イソスタ、税金、かぎ針編み、ストラップ、記録メディア、赤外線、シャワーキャップ、炊飯器、冷蔵庫、猫(サバトラ限定)までくると、もう目がちかちかしてきた。資格講座のチラシよりバラエティに富んでるじゃないか……って感心してる場合か!
結局俺は部活オリエンテーションの参加はあきらめ、倉田とタブレット操作自習をした。
一方その頃、タブレット操作を必死で覚えようとしている俺のことを、またあのグループSNSアプリで、ほめたたえるコメントがあったらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます