大きな報酬

 墓場で元凶となっていた光の天使を倒したミナルーシュとルゥジゥは、最後に確認で少年の家に戻って母親の容体を見に行った。

 そんなにすぐに体調が万全に変わるということはなかったけれど、どこか表情の陰がなくなっているのを見れば、無事に悪い影響を取り除けたんだろう。

『〔クエスト:儚き母〕を達成しました。

 ミナルーシュが8APを取得しました。3SPを取得しました。

 ミナルーシュが〔反逆の烙印〕を取得しました。

 ルゥジゥが8APを取得しました。3SPを取得しました。

 ルゥジゥが条件を満たしたことにより、〔スキル:励ましの音色〕が取得可能になりました』

 そしてその判断が正しいのだと〔クエスト〕のクリア報告でも確認できた。

「お、なんかよさげな〔アイテム〕手に入った。ルゥジゥも新しい〔スキル〕解放されたじゃん」

「とりあえず取ってみようか」

 ミナルーシュと違ってAPもSPもほとんど使っていないルゥジゥは次の〔ルーツ〕の取得を見越しても新規〔スキル〕を一つ取るくらいは余裕だ。

 二人は病み上がりの人の家にいつまでにいるのも迷惑になるだろうと、少年に手を振って街の外に出てからそれぞれに〔クエスト〕の報酬を確認していく。

「え、〔反逆の烙印〕って強いじゃん。〔破壊〕と〔呪縛〕にプラス5する上に〔エンヴォイ〕へのダメージが100増加だって」

「攻撃役のミナには打ってつけじゃないか」

「そっちの〔スキル〕はどんな感じ?」

「〔演奏〕中に自分の〔MP〕を消費して周囲のキャラクターの〔MP〕を回復していく〔スキル〕だね」

「え、なにそれ、めっちゃ強いじゃん。〔スキルランク〕上げて。今上げて。できる限り上げて」

「落ち着けよ、データ厨」

 ルゥジゥは苦笑しながらも、〔MP〕の枯渇が戦闘を左右するのはもう理解しているので〔励ましの音色〕のランクを3まで上げる。〔防御力〕と〔抵抗力〕を上昇するしか役目のないルゥジゥの〔MP〕を消費してでも、攻撃や妨害を担うミナルーシュやクシャナの〔MP〕を少しでも回復した方が戦術として理にかなっていると判断してのことだ。

 そしてミナルーシュはさっそく〔反逆の烙印〕を装備してみた。

「ん、なにこれ、タトゥーみたいな感じなの? 烙印の場所を決めるって言われもな。背中でいいか」

 なんとなく人目に触れるのもイヤだったから、ミナルーシュは〔ローブ〕で隠れた背中に烙印を表示させる。

 ルゥジゥが指で〔ローブ〕の襟を引っ張ってミナルーシュの背中を覗き見た。

「ふーん。なんか散った羽みたいな模様が一枚入ってるね」

「なにそれ。キルマーク?」

「シャープで格好いい見た目だとは思うよ。ほら」

 ルゥジゥはスクショを取ってミナルーシュに見せる。

 確かにデザインは悪くない。

「でも、かっこよくてもこれをクシャナが見たら怒られそう」

「ミナが不良になったって泣くかもね」

「ありうる」

 ミナルーシュとしてはどうぜゲームなんだから現実ではできないちょいワルなファッションも楽しみたいけれど、どうにもクシャナはヴァーチャルだからといってそこらへんが現実と割り切れてない感じがある。

「ま、いいや。背中ならちゃんと着込んでれば見えんし。隠しとこ」

「バレた時にまた怒られるやつじゃないか」

「バレなきゃ泣かれないし怒られないじゃん。それでいこう」

 ミナルーシュのことだからどうせどっかでポカしてバレるんだろうなとルゥジゥは未来予想しているけれど、それで自分が困るわけでもないから黙っておいた。

「〔MP〕減ってるから一回回復してくるよ。ちょっと待ってて」

「ごゆっくり」

 ミナルーシュが〔ゲート〕を開いて〔箱庭〕に行くのを見送ると、ルゥジゥは道端に座りこんで琵琶を手に取る。ゲーム内なら周囲の目や耳がある現実よりも気兼ねなく琵琶を演奏できるのがいい。

 ルゥジゥはどうせなら少しでも二人の足しになるようにと〔パフォーマンス〕を発動しておひねりを狙いつつ弦を撥で弾く。

 ミナルーシュの方はあと一つ〔クエスト〕をこなせば次の〔ルーツ〕分は溜まりそうだ。

 手軽なやつにしてくれたらいいんだけど、とルゥジゥは思う。そうしたら空いた時間でまた琵琶を弾いていられるから。

 ミナルーシュが戦っている後ろで琵琶を弾くのは悪くないけれど、いかんせん移動というムダな時間が生じるのが難点だ。

「おう、嬢ちゃん、さっきも駅前で演奏してたな、おかしな楽器だから覚えてるよ」

「そう? ありがと」

 琵琶を弾いていたら街の人に気さくに声をかけられた。〔インベントリ〕には勝手に【馥郁ふくいくな花】が追加される。

「ところで、この街一番の作曲家の話は知ってるかい?」

「いや、知らないね。この街にも作曲家がいるんだ」

「いるとも。それも天才、マエストロ・ヴェルトヴィンがね。でも最近はスランプらしい。嬢ちゃんの素晴らしい演奏なら、マエストロにもいいインスピレーションを与えられるかもね」

『〔クエスト:音の見つからない楽譜〕を受領しました。詳細はシステムメニューより確認出来ます』

 通行人から話を聞いただけで〔クエスト〕を受け取ってしまった。まぁ、仕方ないかとルゥジゥは軽く受け止める。

「教えてくれてありがとう。気が向いたら探してみるよ」

「そうかい。またいい演奏聴かせてくれよ」

 マエストロのことを教えてくれたおじさんは最後に軽く手を振って人混みに紛れていった。

 ちょうどそこに駅の方からミナルーシュが歩いてくる。

「ねぇ、なんか〔クエスト〕受けたの?」

「ああ。なんか演奏聴いた通行人のおじさんが作曲家の話を教えてくれた。スランプらしい」

「ふーん。なに、その人探すの?」

「ま、ミナの不足ポイントの足しにはなるんじゃないかな?」

「そうね。じゃ、それで」

 ミナルーシュの方も、ルゥジゥを置いていくのでないならなんでも良いらしい。

 自分で受けた仕事だから、ルゥジゥも今度ばかりは気合を入れて立ち上がった。

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