第145話 孵化用バスケット工房の長い一日4
工房の倉庫で盗みを働いていた
「ここどこ!?」
「ブルル……」
「ポポ」
・遭難RTAで草
・迷子になってる場合かー!!
・アカン詰んだ
・森の中で馬はダメだと青の深林と学ばなかったのですか???
・オワタ
絶賛、迷子になりました。
進化前から森林フィールドは苦手だった黒檀丸が、夜の森で追いかけっこなんてできないっていう、初歩的な問題を忘れていたよ……。
肥料泥棒どころか青梅や菖蒲の姿も見失っちゃった。暗くて上手く飛べなかったデイジーとは、なんとか合流できたんだけど、辺りは見渡す限り木しかないし、マップもほぼ黒塗り同然の状態だし、アーツの『視覚共有』で青梅たちの視界を覗いても草葉ばかりで目印になるものは見えないしで、二進も三進もいかない状態である。
・せっかく新√に入ったと思ったらまさかの遭難エンド
・これで終わり?
・サターン8号 ¥500- これ馬を置いといて追いついたら称号効果で呼び出せばよかったのでは?
・ありゃ
「黒檀丸を置いていくとか、合理的が過ぎて心がなさすぎません?」
コメントへの反応でなんとか繋いでいるけど、本当にどうしよう?
一応、冒証ではイベントやクエストで詰んだときのために、リセット機能がある。プレイヤーの力だけで進行できなくなった場合、最初から――セーブポイントがあるときは、その地点から――やり直しができるのだ。これを使うと攻略のヒントも貰えるので、クリアできないって事態に陥らない。
なお、この親切設計が要らないっていう人は、オフにすることもできるよ。難易度調整の幅が広いのも、このゲームが幅広い年齢層に受け入れられる要素かな。
「リセット……でもヒントを貰った状態でまた泥棒(仮)を追って森に入った時点からスタートになったとしても、やっぱり迷って時間かかるかも……」
・それな
・もう配信3時間越えてる
・あー
・フルダイブのログイン制限が憎い
足が止まったまま悩んでいると、不意に近くの草むらが揺れた。
すわエネミーか!? と身構えそうになった私の前に顔を出したのは、先に行っていたはずの菖蒲だった。
「グルゥ!」
「あれぇ、菖蒲? 肥料泥棒はどうしたの? 青梅は? もしかしてあなたも迷った?」
「ギャウ!」
「違うかー。ああいや馬鹿にしたわけじゃないよ、ごめんね」
・抗議のネコパンチ!
・お顔わしゃわしゃかわいいねぇ
・ああああモフりたい
・菖蒲が出ると様子がおかしくなる粋人が一定数いるのなんなの?
・ねこたつ ¥50,000- お猫様の奴隷はどこにでもいる。それはそうとお腹吸わせてください後生の頼みです。
ほとんど物音を立てずに近寄ってきた菖蒲を、黒檀丸から降りて出迎える。ちょっと言葉を間違えて怒らせてしまったので、機嫌を取っていたらコメント欄が一部荒れたけど、そんなことは知らない菖蒲が私をどこかへ連れて行こうとしてきた。
「ガゥ!」
「ちょ、押さないで! 分かった、移動するから!」
「グルル……!」
「ポッポ?」
「ヒヒン」
するりと私の後ろに回ったかと思えば、ぐいぐい頭突きして進ませようとしてくる菖蒲。うちの子と言えど、一・五メートルはあるサーベルタイガーに押されるのは若干怖い。
仕方なく黒檀丸とデイジーを連れて歩き出すと、菖蒲が先頭に立ってどこかへと誘導し始めた。
・どこへ行く?
・?
・これ任せていいの
「私だけじゃあ、もうどっちに行けばいいのか分からないくらい、迷走していましたから……それだったら、菖蒲にお任せするのもありじゃないですか?」
しばらく菖蒲に案内されるまま、森を歩く――途中、黒檀丸どころか私も通れなさそうな狭い場所を抜けようとするのには困った――と、変わり映えのしなかった景色が、だんだんと変化していることに気づく。
今までは空すら見えないほどの木々が乱立していたのが、目の前にぽっかりと穴が開いたような、月明かりが差し込む空間が出来ていた。周囲を観察すると、根元から折れた木のオブジェクトがあちこちに落ちていて、でこぼこの地面がむき出しになっている。
「んー、ここだけ不自然に木がないっていうのは、台風か落雷でもあったんでしょうかね? それか冒証らしく、モンスターが暴れた
・ガチ考察
・愛華ちゃんってそっち方面の学者さん?
・ここって別クエのセーフエリアじゃね
・菖蒲くん待ってるよ
「グルゥ!」
「――」
「青梅!? あなたここにいたの? ……あ、そっか『追跡』! 菖蒲が進化したときゲットしたスキルで、迷子になった私たちを誘導してくれたんだ。ということは、ここが肥料泥棒の居場所……?」
明るくなったフィールドを調べていると、樹上に隠れていたらしい青梅が現れた。開けた空間に視線を向ける姿には、標的を見失って申し訳ない、という感情は見受けられない。
つまりここがゴールで、痕跡をたどって案内ができる菖蒲がお迎えに来てくれたってことらしい。
「ふたりともありがとう! クエスト終わったら、ご褒美あげるからね! ところで、泥棒はどこに……?」
「――」
「ガウ」
・有能
・こういう方法もありなんだ
・勉強になります
・なんか動いてる
・NICE
念のため近くの木に身を隠しながら、青梅が尻尾で指し示す箇所に注目する。
木々が途切れた空間の中央、一際大きな倒木の裏から、数匹の生き物が現れる。それは白くもこもことした体毛をまとい、
「なにあれ? 三匹いるけど、全員毛皮の下が木目っていうか、木そのものじゃない? 一匹だけ角が生えてるけど、それも枝でできてるみたい。……それに、角なしのヒツジ二匹、お腹に
木の要素があるヒツジ……というよりは木で作ったヒツジが動いている、奇妙な光景に呆気にとられる。そのうちの二匹が腹部から、へその緒のような蔓が出ていることに気づき、どこへ伸びているのかを視線で辿ると、倒木の脇に生えた、ひょろひょろの細い木にぶつかった。
『木』であるはずなのに、なぜかノンアクティブモンスターを示すアイコンが光っていることに気づき、私はモンスター情報を調べる『識別』を発動させた。
バロメッツ・ヤングツリー LV9
状態:パッシブ(衰弱)
属性:木 弱点:火・氷・毒
好物:浄化水、肥料
特性:移動不可、攻撃不可、分身体生成
テイム(?) コントラクト不可
バロメッツ・ヤングツリー/分身体(探索型) LV9
属性:木 弱点:火・氷・毒
好物:浄化水
特性:攻撃不可、分身体(探索型)
バロメッツ・ヤングツリー/分身体(農耕型・1) LV9
属性:木 弱点:火・氷・毒
好物:浄化水
特性:移動制限、攻撃不可、分身体(農耕型)
バロメッツ・ヤングツリー/分身体(農耕型・2) LV9
属性:木 弱点:火・氷・毒
好物:浄化水
特性:移動制限、攻撃不可、分身体(農耕型)
『スキル『識別』のレベルが上がりました』
・なんじゃこりゃ!?
・ふぁ?!
・ええええ
・本体そっち
・羊?分身?
・だから肥料か
・バロメッツだと
・木でモンスターの分身、鬼婆世界樹、ウッ頭が・・・!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます