第22話 無双している間に公式メールチェック
本日の冒証世界は晴天。青の深林は木漏れ日が涼しくて、非常に過ごしやすい。
そんなフィールド上で、強力な大蛇が無双していた。
「わー……すごいなー……」
・空飛んでません?
・つっよ
・←木の上を高速移動してるだけだと・・・思いたい・・・
・愛華ちゃん、なんもすることないじゃん
・ここまで来たら笑うしかないんよ
・あキャタピラー落ちた
・梅ちゃん「ご主人にも経験値あげるー」
もうね、存在自体が暴力なんだよ。
敵を見つけたら、ヘビ特有の読みにくく速い動きで接近。あっという間に締め上げて噛みついたら、もうそれだけでKOである。毒? 麻痺? レベル差があり過ぎて、入る前に終わりますが? ときどき、いい感じにひん死になったモンスターを、私と黒檀丸に差し出して、経験値稼ぎをさせてくれる余裕すらある。
奇襲されたらまずいかと思えば、そんなこともない。むしろ熱感知で、隠れているエネミーの位置を割り出して、自分から襲いに行っている。あの大きさなのに木に登って、細い枝の上でも落ちるどころか、縦横無尽に動き回るとか怖いよ。
「えっと、青梅ー? そろそろ、魔法も見せてほしいなー?」
「……」
返事こそなかったが、私の指示はちゃんと届いたようだ。
青梅は一度、樹上から降りて来ると、顔の前に魔法陣が浮かぶ。少しの溜めの後、水の針――太すぎて、もはや杭みたいな代物――が、勢いよく発射された。
「ギイィィッ!?」
・わあ、あ・・・
・バッ/タになってる
・グロ注意
・ひえ
・魔法職涙目
・←LVが違うからノーカンにしてくれ
オ、オーバーキルゥ……。草むらに隠れていたバッタ型モンスター、キックグラスホッパーが水魔法一撃で、真っ二つに……。
このあとも、スネーク相手に木の葉を飛ばして切り刻む、木属性の魔法も見せてくれた。
木魔法は基本属性にない、レア魔法の一種。拘束とかデバフ系が充実していたはずだけど、どうもこのエリアにいるエネミー相手だと、あまり効果がないから、使いたくないみたい。
「うん、ありがとうね。青梅がとにかく強いことは、よく分かったよ。MPがもったいないから、今後は物理攻撃中心で」
そうやって青梅を撫でていると、不意に電子音と共に、メニュー画面に手紙のアイコンが出て来た。
何ごと? と思って開けば、運営からのおしらせだった。
「『臨時メンテナンスのおしらせ』と『第一回イベント告知』? わっ! もう公式イベントをやるんですね!」
・メンテあんのか
・イベント北―
・サイトにも告知が来てる
「ちょっと読んでみますね。……黒檀丸、青梅! 周囲の警戒をお願い」
臨時メンテについては、特に言うことはない。いくつか不具合が見つかったから、修正のために明日の数時間、冒証にログインできなくなるってだけ。ただ、私のいつもの配信時間と被ってしまっているから、ちょっと配信内容を修正する必要があるかも。
本命は次の、公式イベントの告知。
“冒険の証 -world online- 公式イベント『ポリノシス・クライシス! ~いたずら花精をやっつけろ~』の開催が決定しました。
春真っ盛りの今日この頃。陽気に誘われて、各地に花の妖精が大量発生! しかも、花粉をまいて人々を困らせているようです。冒険者の皆さんは人々の暮らしと健康を守るため、花精たちを追い払いましょう。
より多くの花精を倒したり、人々を支援したりすれば、ポイントが加算されていき、報酬と交換できます。
イベント限定称号も存在しますので、皆さん奮ってご参加ください。
※イベント詳細は後日、公開されます。
※開催期間 ~~”
「……という内容です。特定のモンスターを倒して、ポイントを稼ぐようなイベントらしいですね。……ところでポリノシスってことは、これ、花粉症イベント……?」
・pollinosis=花粉に対するアレルギー反応に起因する季節的な鼻炎。つまり花粉症。
・確かに春だけど、どうしてそれをチョイスしたし
・逆に遠慮なく殴れるから?
・杉は全部伐採されればいい
まさかのテーマに驚いた。なんでそこまで捻ったんだろう? まあでも、せっかくの初イベントだ! きっちり準備してがんばろう!
「よし! そうと決まれば、私たちのレベリングと採取です! 黒檀丸、青梅、いくよー」
このあと、青梅の幸運補正で採取がはかどり過ぎて、調子に乗った結果、うっかりフィールドボス・マーダーマンティスの領域に迷い込んだんだよね。
青梅のおかげで、なんとか突破できたけど……もっと慎重に動けばよかったなぁ。やっぱり、強い子がいると慢心しちゃう。反省反省。
それにしてもフィールドボスと戦って、私と黒檀丸がレベルアップしたのに、青梅は上がらなかった。どれだけ経験値が必要になるんだろう。
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