第17話

 それからまた春が巡ってきて、俺は中学三年生、十五歳になった。

 嬉しい事に、最近背が急に伸び始め、気がつくと綾子の背を越していた。


 166センチ、俺の方が2センチも高くなってる。

 すごくないか?

 

 今年は受験だと言うのに、勉強そっちのけで遊んでいた俺は、そのうちギターなんか初めて、バンドってやつにのめり込むようになった。


 スポーツはいまいちだったが、こっちは向いていたのかもしれない。


 仲間の家に集まっては、楽器の練習をする。それは今までなかったくらいに面白くて、俺はぶっ倒れるくらい夢中になった。


 バンドは4人のメンバーで組まれ、俺はギターとボーカルを担当した。

 他は、広志ってのがベースで、正樹がドラム、晃がリードギターだ。


 どいつもこいつも、はみ出したような連中ばっかで、俺たちはバンド名を「REBEL]、・・・・反逆者にした。


 上達してそれなりに聞けるように仕上がると、俺たちは素人ばっか集めたライブで、何度か演奏した。


 すると、まあまあ見たくれのいい野郎が揃っていたので、俺たちのバンドは、素人の集まりの中でもそこそこ人気が上昇した。


 調子に乗って、俺たちは素人バンドのフェスに参加しまくった。女達に騒がれ、少し調子に乗っていたかもしれない。


 一方綾子は、今年の秋から地元の高校で教育実習をする事になった。

 あいつは、港南高校出身だから、多分そこでするんだろうな。


 ・・・・・・・・先生、か。


 夢を着実に叶えようとしている綾子は、立派だった。


 俺なんか、何をやっても中途半端で、結局何時まで経っても餓鬼のまま。女と誠実に付き合う事も出来ない男だ。

 こんな俺では、綾子を好きでいる資格もない。


 いつか綾子をかっさらって行く男を想像して、俺は胸が痛くなった。

 俺がこんなに思っていても、綾子はきっと気づきもしやしないんだろう。


 その夏、綾子は家に帰って来た。

 去年は一週間もいなかったが、今年はバイトを辞めたので、一ヶ月くらいは滞在する予定だと言っていた。


 その間に、高校の先生と色々話しをするのだと言っていた。

 綾子は、やはり俺との喧嘩なんか、すっかり忘れているようだった。


 あいつは、じめじめした所が全くなく、嫌な事でもすぐ忘れてしまう羨ましい性格なんだ。


 俺はその逆で、何時もあれこれと引きずってしまう。

 それでも今年の夏は、去年よりは少しましになっていたと思う。


 綾子を見てもちゃんとセーブ出来るみたいだし、乱暴な言葉で傷つける危険も薄らいでいた。


 だから、綾子が俺を弟にしておきたいのなら、その通りに振舞ってやる事も出来たんだ。


 そうそう、成人式には戻って来なかったが、綾子はもう二十歳。誕生日が来ると、二十一歳だ。


 当然酒も飲めるし、タバコも吸える完璧な大人である。まあ、綾子は、酒は付き合いで飲むみたいだが、タバコは全く吸わないけどな。


 毎年誕生日を祝ってやろうと思うんだが、中々これが上手くいかない。

 俺がこんなだから、この所喧嘩ばっかしてたし、あいつは八月一日生まれ。

 毎年、その日は東京で、こっちにはいなかったからな。


 せいぜい、スマホでお祝いのメールを入れる程度。


 俺も本当に馬鹿だよな、もっと綾子にメールすりゃいいのに、なんだか女々しい事を言っちまいそうで、結局誕生日に軽くメール送るのがやっと。


 なんやかんや言って、あいつにウザがられるのを恐れてる。

 そんなんじゃ、駄目だって思ってんだけど。

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