第14話


 むしゃくしゃしたまま、俺は外に飛び出した。携帯電話で仲間を呼び出し、街へ出ようと誘う。


 仲間はすぐ集まって、俺達は取り敢えず賑やかな場所へと繰り出した。


 ゲーセンで遊んだ後、仲間の一人がナンパしようと言い出す。俺はどうでもよかったが、他の奴らが乗り気だったので、結局つき合う事になった。


 ナンパなんてあんました事なかったけど、案外すんなりと成功した。

 相手は、俺と同じ四人グループ。歳は二コ上で、高校一年生だった。


 その中で、一番可愛い女が、どうやら俺を気に入ってくれたようだった。


 あんま気乗りはしなかったが、俺はもうどうでもいい気分になっていた。

 それぞれに相手が決まると、目配せして、二人だけになる為に俺達は別れた。


 「壱って言うんだ。あたしは、由衣」

 そいつは、俺の名前を聞いた後、ちょっと色っぽい顔をして笑った。


 それから、気まぐれな子猫みたいな目で俺を見て、俺の左腕に細い腕を絡ませてくる。

 甘い香りが、鼻をくすぐった。綾子とは違う、魅惑的な匂いだ。


 不思議な事に、俺には綾子より、由衣の方が大人っぽく思えた。

 大学生の綾子と比べたら、由衣の方が全然年下なんだぜ?


 なのに由衣は見るからに女で、仕草から何からそれがにじみ出てて、なんだか俺を刺激してきた。


 俺達は腕を組んだまま、夕暮れに包まれた街をブラブラと歩いた。


 年上の女。

 それだけで、俺の欲望がうずく。


 海の見える公園まで来ると、俺達は立ち止まってキスをした。

 綾子の顔が、ふと過る。


 俺は、由衣を綾子の代わりにしているのだと思って、酷く苦い気持ちになった。

 だが、それが何だと言う。


 綾子は所詮、俺を弟としか思っちゃいない。そりゃそうさ、綾子にとっちゃ、結局今でもガキの世話してんのと変わらないんだろう。


 それなら、俺を男として見てくれる、由衣の方が断然いいではないか。


 ・・・・そうやって、一生懸命に言い訳している自分が、余計に姑息に思えた。


 「なんか、イチって冷たいよね」

 顔を離した後、由衣は笑ってそう言った。

 俺は肩を竦め、由衣の腰に手を回した。


 なんとなく由衣に誘導されている気がしたが、それが余計に俺を大胆にさせた。


 「俺は、冷たいか?」

 「冷たいよ。凄く冷たいキスだった」

 ・・・・・・キスだけで、そんな事が分かるもんか?

 首を傾げる。


 でも、由衣の言葉は本当で、俺は少しだけ傷ついた。


 「イチって、なんか格好いいね。年下っぽくないって言うか。うちのクラスの男子より、セクシーって感じ」

 しばらく無言で歩いた後、由衣は唐突にそんな事を言った。


 セクシーなんて、言われたことがなかったから、少し戸惑う。

 俺は、何時までたっても餓鬼で、これから何年経っても、綾子との距離は縮まりそうになかったからだ。


 「ねえ、あたしのこと好き?」

 由衣の言葉に、俺は苦笑した。

 「今日会ったばかりだぜ、分からないよ」

 「ふーん、イチは、会ったばかりの、好きじゃない女の子にでも、平気でキスできるんだ」

 ちょっと拗ねたように、由衣は口を尖らせた。


 なんだかそれが可愛くて、俺は、思わず肩に溢れる彼女の髪に触れてみた。

 女なんて、綾子以外はみんな一緒だと思っていたが、由衣には少し違う感情を抱いた。


 触れてみたいという、衝動も走る。


 そんな俺が不純に思えたし、駄目な男だとも思う。

 好きな女が振り返らないからって、平気で違う女とキス出来る男だ。

 なんか本当ひでぇ奴だな、俺。


 「あたし、イチが好きになったみたい。会ったばかりだけど、関係ないよ」

 ハッキリと、当たり前のように言う由衣。


 不意に、俺を見つめる目が愛おしくなって、そのまま強く抱きしめる。

 こんな風に、俺を見てくれる事が嬉しかった。


 でも、やっぱり俺は、綾子が好きなんだ。


 なのに、そんな俺を好きだと言う由衣がなんだか可愛くて、抱きしめられずにはいられなかったんだ。


 俺は餓鬼だから、大人のように上手く恋愛なんて出来ない。

 これが罪だとか、悪い事だとか考える前に、衝動が先走ってしまうんだ。


 もう一度キスをした後、俺達は別れた。


 別れ際、由衣はまた会う事を俺に約束させた。俺も由衣と会いたかったから、携帯の番号を教えた。


 「あたしのは、聞かないの?」

 由衣が不思議そうに聞いたので、俺は電話をくれたら何時でも会うと言った。


 「イチって、やっぱり冷たいよね」

 由衣は溜息ま混じりに言って、最後に笑った。


 

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