第5話
夏が来ても、相変わらず俺と綾子は、仲のいい姉弟を続けていた。
成長して綾子の話しがちょっと分かって来るようになると、俺達の話題も少しずつ変化していった。
映画の話しや音楽の話し、くだらない冗談を言って笑ったり、時にはちょっと難しい社会の話しまでする事もあった。
けれど、前みたいに頻繁に遊びには行けなかった。
だって、高校三年の夏と言えば、受験生最後の追い込みだろ。塾にも通っていた綾子は、家に帰る時間も遅かったし、家に帰ってからも毎晩遅くまで勉強しているようだった。
俺は前々から、綾子が先生になりたいと思っていたのは知っていた。
陸上部に入っていたくらいだから、体育の先生にでもなりたいのかと思っていたが、実は国語の先生になりたいんだそうだ。
なるほどな。
そう言えば、綾子は本が大好きで、書店に行っては何冊か買い込んで、それを徹夜してまで読みあさっていたな。
俺は寝不足になってまで本を読む神経が分からず、ただ呆れただけだったけど。
今思えば、そういう事も国語の先生になりたいっていう要因になっていたんじゃないだろうか?
綾子は、地元の大学と東京の大学を受けるつもりだと言っていた。勿論、希望は教育学部だ。
俺は、綾子ならいい先生になれると思った。
俺の学校の女先生は、ガミガミ煩いのか、すぐにヒスるようなのばかりだったからな。だから、綾子が先生になるなら絶対に人気者になれるって、太鼓判を押してやった。
すると綾子は、嬉しそうに俺の頭に手を乗せて、ありがとうと笑った。
俺の大好きな、あの笑顔で。
そうだ。俺は、こんな姉と弟のような関係が、一生続くものと思い込んでいた。
俺達は何時までも仲良しで、ずっとこうしていられるものだと・・・・。
けれど、俺は着実に大人になっており、それと同時に男にもなっていたのである。
その夏の終わりに、俺の中で急速な変化が訪れたのだった。
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