第4話
春が来て、学年が変わった。
俺は六年生になり、綾子は高校三年生。
その頃になると俺は、クラスの友達と遊ぶ方が大事になって、綾子が誰とつき合おうが気にならなくなっていた。
て言うか、なんか、そうやって綾子相手にすねてる自分が、なんだかガキ臭く感じるようになった。
次第に大人には話せない事が増え、俺には俺の世界が出来たからな。
綾子だって、まあ、色々あるんだろう、くらいに思えるようになったと言うか。
上手く言えないけど。
何だか、今までの自分と違ったような気がして、やけに大人ぶってみたりして。で、綾子と川辺の野郎の事も、妙に広い心で見られるようになってきた。
気持ちが変わったおかげで、俺と綾子の間のぎこちなさも大分減って、また仲の良い姉弟のように話せるようになった。
俺が初恋をしたのも、その歳だった。
相手はクラスの女子で、西村愛と言う名前だった。明るくて可愛くて、ぱっと目に飛び込んで来るような女だった。
俺はどぎまぎしながら、そいつに悪戯をしたり、わざと怒らせるようなことをしたりして、気をひいていた。
結局、大人になんてなってなくて、綾子にしてた事とたいして変わりなかったと気付いたのは後になってから。
すげぇ餓鬼っぽい事してたけど、不器用な俺には、そんな事くらいしか出来なかったんだよな。
だけど西村は、俺に嫌われていると思ったらしく、次第に俺を避けるようになった。俺はそれが寂しくて、思わず綾子に相談してしまった。
「いっちゃんも、男の子なんだね」
その時、綾子はそう言った。
俺は、馬鹿にするなと怒ったが、綾子はただ、にやりと笑っただけだった。
それから俺の肩をがしっと抱いて、人の良い親父のように何度も頷いて見せる。
なんかそれが滑稽で、思わず怒りも忘れて笑ってしまった。
その告白は、ある意味で俺達の関係を親密にするものになった。秘密を共有したもの同士のような、スリリングな関係だ。
その時初めて、綾子も俺に川辺の話しをしてくれた。
「川辺君はね、港南高校のバスケ部なんだ。見かけはあんなだけど、優しいし、凄くバスケが上手でね、あちこちの大学からスカウトがくるくらいなんだよ。あたし、ファンしてて、最初は遠くから見てるだけで満足してたんだけど、彼があたしの方に気づいて、振り向いてくれた。もう、凄く嬉しかった!」
キラキラ目を輝かせて話す綾子が、とても印象的だった。それは、何時も馬鹿みたいに元気な綾子とは違う、恋をして揺れている女の顔だったんだろう。
綾子は散々川辺の惚気話を聞かせた後、俺の初恋の相手の話しを聞きたがった。
俺は、その子がクラス一の美少女である話しや、絵が凄く上手い話し、よく笑う可愛い女だと言う話しをしてやった。
すると最後に、俺の背中をバシンと叩いて、綾子は頑張れと言ってくれた。
・・・・・だが、俺の初恋は、西村の転校であっさりと終わった。
俺は最後まで彼女に告白する事は出来ず、結局クラスメートの仲間として「さよなら」を言っただけだった。
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