ガイ、ベティーに感謝する・3

 魔物の売人の調査はゲイブに命じて部下に任せると、ガイはこれ以上自分が現場に出ることをやめた。

 この任務には強大な魔物の出現や魔物の数が多いということはないため、階級の低い者たちでも十分にこなせる任務であると判断したからだ。ロスの街中で出現した虎の姿をした魔物も神団の神将にとって脅威ではない。

 ガイは調査報告書を読みながら、魔物を売りさばいている元締めは誰かと考えた。一番にやることは魔物を器に封じている者を捕まえることである。特別捜査官たちはどのように動くのか、ラインはどうするのか。彼が無謀な行動に出るとも言っていたが、そもそもラインが特別捜査官であることにピンとこない。


 ガイは目を瞑り、ため息をついた。

 任務のことを考えなければならないのに、すぐに別のことを考えてしまう。

 ベティーにラインと再会したことが本当に偶然なのかと言われたときから、ベティーとミリーの話がずっと頭の中から離れなかった。ベティーの祖父が言った言葉もそうだ。

 十年前のラインとのことはガイにとって心残りで、いまだ心に引っ掛かっている棘のようなものだ。だからこんなに気になるのだろうか。


 何度も馬鹿げたことだと思う。

 今さら少年の頃のラインのことを考えても意味がない。それでも考えてしまう。

 ベティーの祖父はベティーにミリーの立場で考えろと言った。なぜ、ミリーはそんなことを言ったのか、相手の立場に立って考えろと助言した。そう、なぜラインはあのようなことを言ったのか。あの言葉がそのまま神将を恐れての意味なら、今のラインの姿はありえない。神将や魔物に関わるはずがないのだ。

 

「むちゃをすると言っていたよな」

 

 再び、調査報告書に目を向ける。調査報告書には捜査官の経歴も載っていた。

 魔物を調べる上では例え捜査官であっても調べる。こちらは犯罪を調査しているわけではなく、魔物の壊滅のために動いている。

 魔物にとって人は捕食対象であるため、常に人の心の隙間に入り込み、自分たちの方に引き寄せようとする。魔物と関わったことがある者は魔物との縁を持ち、異界から来るための目印になることがあった。警察官だろうと捜査官だろうと身分に関わらず、どこで魔物とつながっているかはわからない。今回のことに関係している者はすべて調査対象であった。

 

 ラインの経歴を読みながら、ガイは拳を握り締めていた。

 連邦特別捜査官となって七年、北米のあらゆる場所に出向いて事件を解決していた。高校を卒業してすぐにロサンゼルスの警察に入り、三年後には魔物関係を担当する連邦特別捜査官になっていた。

 ガイと別れて一年後には、特別捜査官につながる場所に入っていた。


「なぜだ。なぜだよ、ライン。警察なんて興味がなかったよな。植物学者になりたいと言っていたじゃねえか。あれほど魔物を嫌い、神将を嫌っていたよな。神将を世界が違う者と言っていただろう」

 

 それなのに、なぜ神将がいる世界に入ってきたのか。自ら違う世界に来たのか。

 キャスパー捜査官がラインのことを、むちゃなことをすると言っていた意味もわかった。ラインは人を助けるために魔物の前に飛び出し、危険な目に遭っていた。けがを負い入院までしている。まるで死んでもよいと言わんばかりに神将の到着を待たず、魔物がいる建物に突入し、何度も危機的状況に陥っていた。死ななかったのは本当に運が良かっただけだ。

 これは正義感でも勇気でもない、ただの無謀で命を捨てる行為なだけだ。


 あのときガイが神将候補だとわかった時に、友ではないと言ったのはライン自身に何か事情があったのではないのか。ベティーはそう言って、ミリーとの話をしてくれた。

 ベティーはミリーの事情を知らなかった。ミリーがベティーに言った言葉の裏側には、女神に悪意を持ち嫌うとはまったく違う事情があった。同じように、ラインにもミリーのように違う事情があったのかもしれない。自分が知らない、わからない真実があったのかもしれない。

 ようやくそう思えた。そして、それを知りたいと思った。


「ラインは学校を卒業して、すぐにこの道を選んでいる」


 ガイは、ふとに当時の担任だった先生を思い出した。先生はまだ学園にいるだろうか。当時、見た目は白髪の老人に見えたが、確か先生の年齢は五十前であった。今は六十手前になっているはずなので、まだ学園にいる可能性がある。先生はガイが学園を去るときにも何も言わなかった。どこか諦めた顔で送り出してくれた。


「いい先生だったな」


 一年間だけの学園生活だったが、いい先生に恵まれていたと思う。

 先生であれば、ラインがなぜ警察へと入り連邦特別捜査官になったのかを知っているかもしれない。

 ガイはタブレットを取り出し、学園を検索した。機関の情報網で検索すれば、学園の情報ぐらいすぐに取り出せる。今でも学園はあるし、まだ十年しかたっていないのだ。学園の電話番号がわかると、ガイはすぐに学園に電話をかけた。


「ワトソン先生はおられますか?」

 ガイはその名前を十年ぶりに口にした。学園の関係者に先生の教え子だったと告げたとき、不思議な気持ちがした。先生はまだ学園にいた。そして電話から聞こえてくる声は懐かしく、昔と変わらなかった。


「ガイか、久しぶりだね」

 穏やかな声がガイを昔に戻していた。


「先生、お久しぶりです」

 いつもと違い、丁寧な口調で答える。

「どうしたのかね。電話の声から元気そうだから、病気だという話ではないようだね。君は神将になったのかね」

 飄々とした話し方と気兼ねのない質問に、ガイは思わず笑ってしまった。


「変わらずだね、先生」

 昔のような口調になった。


「ああ、そうそう人間は変わらんよ」

「そうか。もちろん神将になった」

「そうだろうな。それでいきなり電話をしたくなった理由は?同窓会の確認かい?」

「俺が誘われるはずがないだろうが」

 ガイは少し苦笑した。

「ああ、君は行方不明だからね。誰もどこにいるのかわからないのだから、同窓会の案内など送れるはずがないよ」

 しれっと言われてガイは思わず、それもそうだなと思った。

 学校に記載されている住所も身元保証も一族とは関係ない一般人の知り合いに頼んだものだ。ガイが誰にも何も言わずに学校を去った時点で、自分を探すのは困難だろう。

「先生に電話したのは、ラインのことが聞きたくてかけた」


「ああ、なるほど。彼と会ったのかね」

 ワトソン先生は驚くこともなく、あっさりとそう言った。ガイは少し沈黙する。


「まるで、ラインと会うのが分かっていたようなくちぶりだな」

「もちろん、わかっていたさ。それで彼がどうしたのかね」

 淡々とした答えに、ガイは何を聞いていいのかわからなくなった。だが、彼のことが知りたかった。


「ラインは連邦特別捜査官になっていた。彼は学者になるかと思っていたんだけどな」

「不思議かね?」

「ラインは神将を嫌悪していた。俺はそう感じた。それなのに神将と関係する仕事をしている」

 先生の声は少し沈黙すると、まるでたあいもない世間話をするかのようにラインの事情を話し出した。

「彼はとても勉強が優秀で研究熱心だったからな。彼の父親は植物学者だった。だから彼も植物学への道に進みたいと思っていたのかもしれない。でも、学者の道を選ばなかった。彼は子供のときに魔物に会ったことがあるのだよ、君は知っていたかな」


 ガイは初めて聞く話だった。ラインはそんな話をしたことがなかった。

「いや、知らない」

「町が魔物に襲われたとき、父親はラインを助けて亡くなった。母親の方は神将が助けたと聞いている。ラインも大したけがもなく無事だった。八歳の頃の話だ」

 ああ、やはりミリーのようにラインにも深い事情があったのだ。神将候補であった俺に、あのように言ってしまった事情があった。

 ベティーの祖父の言葉が脳裏を過る。友だと言うのなら真実に耳を傾けろと。


「知らなかった」

「そうだな、ラインは友達には知られないようにしていた。夜にうなされて眠れなくても、誰にも話をしていないだろうね。あの課外授業で魔物が現れたときのことを覚えているかね」

「忘れられないことだ」

「そうだろうな。私たちも忘れたことはない。魔物の恐ろしさとあれほどの恐怖を味わったことはなかった。まったく、君はひどい生徒だな。何もかも偽証して学校に来たのだからな。先生である私にまで知らせなかった」

 ガイは、素直に謝罪した。

「すみません。俺は、神将ではない自分になりたかっただけです」


「わかっているよ。だから、怒っているわけではない。あの魔物が現れたとき、私は絶望した。あれほど大きく強い魔物を見たことがなかったし、逃げることもできず、命が助かるとも思えなかった。しかし、一番恐怖を持っていたのはラインだったに違いない。彼は目の前で父親が亡くなり、父親が自分を庇って亡くなったことで母親に疎まれ、八歳で人生が過酷なものに変わってしまった。魔物の恐ろしさを嫌というほど知っている」


 ガイは深く息を吐き出した。ベティーは勇気を持って、友の真実を聞いた。十六歳の少女の方が勇気があるというのは恥ずかしいことだ。だから、今、自分は知らないといけない。


「知りませんでした。俺は怖くありませんでしたから」


 ガイの言葉に先生は電話の向こうで苦笑した。ガイは素直に謝罪した。魔物が怖くては神将などできない。小さい頃から訓練を重ね、十歳になる前にはあのとき現れた魔物ぐらいなら倒していた。それにガイの一族は神将一族だ。物心ついた頃から毎日行われていた修行はとても厳しかった。


「いや、謝ることではない。確かに君は怖がってはいなかった。あのとき、あの魔物の前に立ち、平然と素手で闘っていた。私は本気で驚いたよ。それから炎を出現させ、その炎で魔物をあっさりと消し去った。その時になって君が普通の子ではないこと、神将候補であることがわかった。まあ、もともと並外れた容貌をしていたし、学業も運動神経も普通ではなかったからおかしいと思っていたけどね」

「ええ」

「だから、君に助けられた私たちは、特に生徒たちは君にどう接していいのかわからなくなったのだよ。神将など会ったことがない。準将には会ったことがあるがね。神将と準将では比べられないほど力が違う。神将候補である君はとても特別だった」


「俺も普通の人間なのですが」


「もちろんだよ。でもね、自分たちの手に負えない、死と絶望をもたらす存在を前にしたときの恐怖。そして、それをあっさりと解決するような人間が目の前にいたとき、君はどうする?」


 ガイは少し考えたが、わからなかった。以前、神将にも同じようなことを言われたことがあった。彼は圧倒的な力を持った者にはわからないことだとも言った。ガイは神将の中でも特別だ。特将は同じ神将からも距離を置かれる。

 確かに気持ちなどわからないのかもしれない。だから、沈黙しかなかった。


 先生はガイにかまわず話を続ける。

「ラインは、強烈とも言えるほど神将に畏怖の気持ちを持っていた。魔物に対しても神将に対しても、強い思いを持っていたんだね。そして、君に対してもね。だから、学校を卒業して、連邦特別捜査官への道を進んだ」

「なぜですか? なぜ、神将に関わるのですか?」

 先生の声は、どこか朗らかだった。

「さあ、ラインの気持ちはラインにしかわからない。君はラインに会ったのだろう。聞きたいことは、本人に聞くと良いよ。君がまだ、彼を友だと思っているのなら話をしなさい」


 ガイを親友だと言ったときのラインの顔が浮かんだ。学者になれたらいいなと笑った顔や、夜遅くまでたわいもない話をしてお互いに夢を語り、遊んだ日々が懐かしかった。ガイにとって一般の学校は、逃げ出した苦い思い出の場所であった。でも、あの学生時代の時間は、神将も魔物からも解放された、おそらく生涯で唯一の特別な時間だった。

 ガイの心にベティーの言葉が聞こえてくる。ミリーのことをよく考えた。それでもミリーが懐かしく、彼女が好きだから友達でいたかった。だから彼女と話そうと思った。

 ベティーの祖父の言葉を思い出す。素直になぜ友を誇れないのか。言葉で言わないと伝わらない。言葉で言わないとわからない。


「そうだな、先生。あとは直接、あいつに聞こう」


 先生は少し電話口で沈黙をした後、軽く言い忘れたというように付け加えた。

「ああ、それがいいね。ラインはかなりむちゃをするから、君が気を付けてあげてくれ。弱いくせに無理をするのだよ。彼とは二年前に会ったのだが、私は彼が死に急いでいるように見えた。八歳のまま時間が止まっているのだろうか、まだ、魔物から逃れていないのかもしれない。君は肉体的には強いから守ってやってくれ。まあ、精神的には軟弱だがね。ああ、今は違うかな」


 ガイは、くつくつと笑った。

「いや、まだまだ弱いガキだよ。知り合いの十六歳の少女にも負けているからな。俺のかわいい妹の方が根性がある」

「そうなのかね。男はいつまでも弱いものだよ。女性の方が強い」

「至言だ」

「君もそのうち同窓会に参加しなさい。ラインと仲直りしたら招待状をもらうのだよ」

 その言葉にガイは笑いながら、お礼を言って電話を切った。

 ガイは、真剣に調査書を読みながら、ラインへと思いをはせた。






 第九部隊所属の二人が直立不動でガイの前に立ち、任務の報告をしていた。

 三人目の事件が起こってから一週間がたち、今回の任務に関しては、ほぼ目途が立った状況であった。連邦特別捜査官から来た報告書も確認し、事件解明がされたと見ていた。


「ニューヨークを拠点としているグレオールというギャングが、売買していることがわかりました」  

 今回の任務は第九部隊の中でも若い者が担当していた。神団に上がってきたばかりの若い神将は神経質そうな顔で真面目に報告を続けた。第九部隊は大柄で粗野な態度の者が多い中、線の細く生真面目そうな青年をガイは珍しく感じた。


「魔物を呼び出したのは、そこそこ力のあるシャーマンのようです。それも機関に所属していたことがあり、研究所に勤めていました。今回、機関の知識を使って魔物を封じ込め、売っていたようです。最初は小さな魔物で数も少なったのですが、だんだんと調子に乗って数を増やしていったということです」

 ゲイブはちらりとガイを見て、今の報告に付け足す。

「大きなものも手を出しているようです。彼らは数人の女性を誘拐しています。その女性たちを犠牲にして、魔物を呼び出す儀式を行っていたところまでは突き止めました。これは特別捜査官からの情報です」

 

 ガイが思っていた以上に悪い報告に、露骨に顔をしかめた。魔物の売買だけではなく、魔物による犠牲者がいるということで、ガイの中で任務の危険度が上がった。それは危険度の高い魔物が出てくる可能性が出てきたからだ。魔物のこと以外でも今回の件は慎重になる必要が出てきた。

 かつて機関に所属していた者が絡んでいるとなると、各方面にいろいろと根回しが必要になる。行政や経済界の者たちはすぐに機関のあげ足を取ろうとする。神将は彼らにとってい欠かせない存在だが、畏怖と反発も根強いからだ。


「魔物の入った器の回収はどうなった?」

 もう一人の大柄な神将の方がにかっと笑った。こちらは第九部隊にふさわしい面構えとふてぶてしい態度であった。

「片っ端からぶっ壊してきました。連邦捜査官たちから三人の売人が売った先のリストをもらいましたので、器はすべて排除してきましたよ。二百以上ありましたから、そこそこの数がありましたね」

 脳筋の部下は良い笑顔で答えた。ガイはこの脳筋部下の隣に立つ青年をちらりと見て、青年の穏やかな表情から意外とこの二人は相性が悪くないのかと思った。隊長として、誰と誰を組ませるかも大切な役目である。


「器は残っていないのだな?」

「はい。グレオールの売人は五人いましたが、そのうち主に売買をしていたのが亡くなった三人です。捜査官たちもプロですからね。二人目が亡くなった時点で一人捕まえました。残り二人を追っていたときに三人目の事件が起きたので、すぐに最後の一人も保護したという訳です」

「ふうん、補佐官たちもまあまあやるじゃねえか」

「まあ、売人たちも魔物が入った器を扱うのはなかなか大変だったらしく、三人は能力者だったから大量に扱うのにも慣れていたようですが、残り二人は普通の人だったようでほんと触れなかったようですよ。びびって、ほとんど売人としての仕事はできなかったということです。ほら、封印されているとはいえ、魔物が入っている容器を触るなんて怖いですからね。そういえば、俺が前に魔物を掴んで振り回していたら、一般人に悲鳴を上げられましたよ」

 はははと脳筋の部下が明るく笑い声をあげた。


 こいつには、あとでTPOを教育させよう。一般社会でこの対応をされたら、一般社会の偉い奴らから非難がくる。

 ゲイブに目配せすると、大真面目な顔で心得たように頷いた。

「ゲイブ、ばらまかれた入れ物は、すべて破棄したのか?」

「逮捕された売人二人から数を聞いています。最後の一個を破棄するまで念入りに確認しますので、まだ終了ではありません」

 ガイは小さくyesと答えると、じっと、報告書を読んだ。


「この売人たちの死の真相は?ギャング絡みか? 」

「これは、別な方面のようです」

 ハリーが答えた。 

「別な方面? 」

「魔物の犠牲になった女性たちの身内によるものです」

 ガイは眉をひそめる。

「誘拐された女性たちの身内が行ったのか?」

「Yes、報復したということでしょう」

 ガイの鋭い視線に副隊長の二人は平然としていたが、目の前にいる若い神将二人はビクッと体が動いた。

「誘拐は、かつて機関に所属していたシャーマンとかいうやつがやったんじゃねえのか? 」 

「いいえ、亡くなった三人の売人が行いました。シャーマンが大量の魔物を誘き寄せるために必要だと言ったためです。今回の事件は女性たちの身内がそれぞれ行ったとのことです。犯人は二日前に逮捕されたとの連絡がありました」

 ガイは小さく息を吐き出した。

 

 今回の事件の犯人が捕まったのなら、あとは魔物を売買している件のみだろう。ガイは魔物にまで手を出したグレオールを、そのままにしておくつもりはなかった。グレオールはギャングの中でも中堅である。あいつらの上層組織はニューヨークを二分する勢力だったはずだ。釘を刺しておくかと、その組織の幹部たちの顔を思い浮かべた。

 機関は彼らが魔物に手を出さなければ、ギャングやマフィアと敵対しているつもりはない。彼らも俺たちとは敵対どころか、関わりたくもないだろう。

 魔物の売買など馬鹿なことをした組織など、あいつらは簡単に切る。あいつらは誰よりも神将の恐ろしさを知っているからだ。


「それで捜査官たちはこれからどう動く? 」

「シャーマンとグレオールのトップを捕まえるので、魔物はすべて任せると言ってきています」

「踏み込むということか? 」

「これ以上の被害を避けたいのでしょう」

「確かにな。愚かなシャーマンだ。そいつは魔物をどのくらい捕らえているのだ?」

「手元に十五体ほどです」

「どのぐらいのレベルの魔物だ? 」

「Cクラスです」

「そうか。俺が行く」


 ざわりとざわめく。ゲイブとハリーは顔をしかめた。

「隊長が自ら出ることはないと思います」

「ゲイブ、俺に指示をするな。それとも二人とも来るか?おまえたち二人は外で待機しておけ、外の駆除は任せる」

「隊長!」

 ゲイブの強めの声に、ガイはにらんだ。

「おまえたちが来ないのなら、俺一人でもいいけどな。一応、隊長だからな。他の者を連れて行くか」

「私は行きますよ」

「私もです」

 二人は同時に答えた。


 その時、目の前の若い神将の一人の携帯電話が鳴った。

 張り裂けそうな制服の中から携帯電話を取り出し、番号を見て、ガイに一言断ると話し始めた。

「な! 何を! ちょっと待て、電話を切りやがった」

 焦った声とともに、携帯電話を切った。ガイと副隊長たちの視線に姿勢を正すと、声を張り上げた。


「報告します。連邦特別捜査官からの電話でした。彼らは今からシャーマンのいる建物に踏み込むとのことです」

「はあ? 俺たちを抜きにか?」

 ガイは嫌な予感がした。心底呆れた顔をしたゲイブが、今回の任務を担当している二人に指示を出そうとしたが、その前にガイが動いた。


「やれやれ、ちょっくら魔物退治といくか」

 ガイが立ち上がったのを見て、ゲイブの顔が険しくなる。

「本気ですか? 」

「本気だ」

 短く答えると、にっと笑い、声を張り上げた。

「野郎ども! いくぞ! 」

 Yesといくつもの低い声が響いた。


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