変わり目と雪女 2
宮島という女がいた。
宮島は小さい頃から美人と持て囃されているが、それを鼻に掛けない良い性格をしていた。
しかしどうも運だけは悪く、夜中一人で歩いていると邪悪な男三人組に捕まってしまった。
男は宮島の服を引きちぎり、彼女を裸にした。男三人組は彼女に暴行を与えるために拉致したのだ。彼女は助けを求めるが、男達の笑い声でかき消された。
誰も助けに来ない。
それが分かった瞬間、宮島は首筋に寒気を感じた。
宮島は最初、自らが犯されることに絶望し、それによる冷汗なのだと思っていた。しかし、直ぐにそれが違うことに気付いた。
男達の後ろの車窓に女がいた。
女は暗い紺の着物を着ている。長い白髪で、地面に髪がついていた。そこまで伸び切っていたら、手入れをしていなさそうなのに、髪にはつやがあった。そして、その髪の間から覗く顔はあまりに美しく、襲われているにも関わらず、宮島は髪の長い着物の女に一瞬見惚れた。
女は口から白い息を吐き、それが下に溜まっていった。やがて車にその息が触れると、ミシミシと音を立てて凍っていった。男達は人と勘違いし外に出た。すると男は白い息に触れ、凍った。
宮島は占めたと思い、その場から逃げ出した。足が沈殿した息に触れ、足の裏が凍傷になった。
女は男達が死んだことを確認すると、宮島が駆けていくのを見つめていた。
「……違う」
駆けていく宮島を見つめ、女は呟いた。
「仲間は、どこだ」
○
草高校科学室より。
「千葉県草区って、もはやここじゃね。付近じゃね? え、じゃあこの記事……マジってこと?」
「そもそも、口から冷気を吐く人間なんて、この世にいませんよ……。どうしますかこれ?」
どうしますって……これどうすりゃいいんだよ。
雪女召喚実験が成功したってことなのか……な? じゃああの冬は何なんだよって話になるけれど、雪女現れる時に冬が訪れるって専門書にも書いてあったし……あれは雪女が出てきた時の影響で天気がおかしくなったのかもしれない。
今の状況を鑑みるとそうとしか考えられない。だって雪女が存在するわけないのだから。
問題はこの雪女をどうするかという問題だが……こいつを不始末のままにして置いたら、絶対まずいよなあ、下手すりゃ
しかも死者も出ているのかこれ、うーん……
「戦うしかないか……」
「……っすね」
「3Dプリンターが壊れてるから、あんまりいい武器は作れなさそうだけど、なるだけやってみるよ。君も今日は授業をさぼってくれ」
「まあ、そうなりますよね。家から武器になりそうなもん探してきます」
「わかった。じゃ私は3Dプリンターから精製したものの活動を停止させる装置と寒さに強くなる塗り薬を作っておく」
「じゃあ、物を作る拠点をラボに移そう。ラボなら色々あるし、五限目から科学室使われるかもしんないし」
「わかりました、じゃあ帰ったらその足でラボに行きますね」
○
部長は自分の発明をある筋に売り込んでおり、それで金銭を得ている。最近は僕にも給料といって発明金の一部をくれるのだが、決して少額とは言えない量で、なんなら高校生の僕には大金であった。
しかし彼女にはそれが微々たる金だと言わんばかりに、膨大な金を持っている。
その証拠の一つが、地下秘密基地こと、深山景地下室こと、部長ラボである。
場所はリテラシーとプライバシーに付き言えないが、本当にある。
ラボは畳でいうところの三十二畳くらいあった。結構広い。少なくとも科学室よりかは広い。
そこには法に触れる薬品や、試すまでもなく危険な物などがある。
そこには夏ぶっ壊したモデルではないが、旧型3Dプリンターがある。質は悪いが、こちらの方がプリントアウトは速い。
そして僕は、かつて使っていた、金属バッドの柄の部分に釘を刺したバット、つまり釘バットを持参してきた。
「これがあれば戦う分の戦力は作れる。プリントアウトするのには時間が掛かるが、それまでイチャイチャして時間を潰そう」
そこまで言うと、彼女は僕が座っているソファの隣に座り、僕の膝に頭のをせて「ごろにゃあ」とか言い出した。
僕は彼女の顎を撫でた。
すると彼女は満足そうにした。
○
プリントアウトが完了し武器が整い、夜になった。
部長がこの前作り、残ってた耐寒ジェルを体塗りたくり、準備が完了した。
作戦はこうである。
まず異常気温探知レーダーで、雪女がいる場所の目安を付け、僕が釘バッドで雪女にダメージを与え、怯んだ所を掃除機型3Dプリンター生成物緊急停止装置――通称オバキュームで雪女を無力化する。なんで掃除機型なのか聞いたら、今度一緒にゴーストバスターズみよっかと言われた。
無茶な作戦だし、痛い目を見るのはおそらく僕だが、僕は部長を愛しているため、それで了承した。
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