第6-2プラン:試食会の結果は……

 

「それじゃ、そのオススメのコロッケサンドをもらおうかな」


 次にソフィアに声をかけたのはフォレス先輩だった。爽やかな笑みを浮かべ、彼女を真っ直ぐに見つめている。


 彼女はそれを認識した瞬間、大きく息を呑む。そして頬を真っ赤に染めながらお淑やかな感じでコロッケサンドを手に取る。


 ソフィア、きっと心臓は破裂しそうなくらいに高鳴っているんだろうな。それを必死に押さえているに違いない。あんなに間近でフォレス先輩から話しかけられたことなんてないはずだし、今だけは独占できているんだもんね。


「っ!? フォ、フォレス様……っ! は、はいっ、どうぞこちらですっ!」


「ありがとう。キミはソフィアさん――だよね? セレーナから話は聞いてるよ。販売員として力を貸してくれるんだってね。期待してるよ」


「そうおっしゃっていただけると嬉しいですっ! 一生懸命に頑張りますっ!!」


「たまには僕もお店に顔を出すから」


「ホ、ホントですかっ!? ぜひぜひお待ちしていますっ! ……あ、でも定期船の発着場でも同じ商品を買えるのでは?」


 わずかに眉を曇らせて問いかけるソフィア。それに対してフォレス先輩はクスクスと微笑みながら小さく首を横に振る。


「それはそうなんだけど、出資者のひとりとしてセレーナの店の経営状況が気になるからね。それに本店ならソフィアさんと楽しく話が出来るし。もちろん、お互いに仕事があるから挨拶程度しか出来ないかもしれないけど」


「いえ、それでも充分に嬉しいですっ! こうして間近でお話が出来るだけで私は幸せなんですっ!」


「それじゃ、またあとでね」


「はいっ!」


 ソフィアはすっかり夢見心地のようだった。フォレス先輩がコロッケサンドを受け取って、その場から去っていく姿をずっと見つめている。恋する乙女って感じだなぁ。


 それにしても、ホントにフォレス先輩は罪作りな人だと思う。あの笑顔や気遣いを無意識にやってるんだから。普通の女子は勘違いするっての。女たらしで人たらしの悪魔め……。


「セレーナ、これは美味いよ。絶対に売れる!」


 その時、文房具屋さんのお爺さんがわざわざ私のところへ歩み寄ってきて褒めてくれた。隣で作業をしているザックやサラ、店長もそれを聞いて嬉しそうだ。


「てはは、ありがとうごさいます」


「でも総合商店はセレーナの店の開業や商店街セールの期間に合わせて大売り出しをするらしいぞ」


「それは仕方ないですよ。すでに一般にも周知されている情報ですから、対抗措置をとってきてもおかしくはありません」


 私は手を止め、下を向いてポツリと呟いた。


 すでにソレイユ水運の発着場を始め、街のあちこちに私の店の開業や商店街セールの情報が書かれたポスターが掲示されている。状況的には総合商店に何らかの動きがあってしかるべき。相手の出方が気にならないと言ったら嘘になる。


 ただ、私たちはやるしかないのだ。もはやあとには退けない。


 すると私たちの話を聞いていたのか、ランクさんが歩み寄ってきて私の背中を軽く叩く。


「大丈夫だよ! うまいサンドイッチがあるし、俺たち商店街の商品だって品質はヤツらより上だ。負けるもんかよ」


「そうおっしゃっていただけると嬉しいです」


 元気づけられ、私はありがたい気持ちで一杯になった。


 そうだ、私たちはたくさんの人に支えられているんだ。弱気になってどうする。負けてたまるかっ! 私は気持ちをあらためて引き締める。




 こうして大好評のうちに試食会は終了し、私たちは片付けに入ったのだった。もっとも、用意した食材はほとんど使い切ったので、調理器具を洗う作業がメインだったけど。


 それとずっと夢中で作業をしていたから気付かなかったけど、落ち着いた今の状態になって疲れが一気に押し寄せてきた気がする。今夜は自宅に帰ったら即座に深い眠りに落ちてしまいそうだなぁ……。


 ちなみに組合会館には私とサラ、ザック、店長、ソフィアが残っている。


「お疲れさまでした、セレーナさん」


 サラが疲労の色を浮かべつつも満足したような顔で話しかけてくる。充実感と手応えに心が満たされているのかも。


 商店街がピンチになって、私に相談に来た時と比べると格段にいい顔をするようになっている。全ての始まりは彼女の相談から。私と一緒にずっと頑張ってきてくれた。


 でも今は私の方が熱を入れちゃって、今後の結果がどう出るにしても間違いなく私の運命は大きく変わったと思う。本当に人生って面白い。


 私はそんな想いに浸りながらクスッと笑う。


「お疲れ、サラ。試食会は大成功だったね。これだけアピールしておけば問題ないでしょう」


「果たして総合商店はどんな行動を取ってくるでしょうか?」


「自滅してくれれば最高だけどね。もし何もしてこなければ、それはそれでありがたいし」


「ワシとしては総合商店の連中が可哀想に思えてくるよ。商店街側にセレーナちゃんがいたのが彼らの誤算だね」


 店長は楽しげに言い放った。そしてお茶を一口啜って心地良さそうに息を吐く。


 その店長の後ろにはザックが立って、肩を揉むサービスをしている。それは彼が自主的に始めたことで、店長がお疲れの様子だったのを目の当たりにしたからかもしれない。今日はサンドイッチ作りをかなり手伝ってもらっちゃって、老体には厳しかったと思うもんなぁ。


 デモンストレーションのつもりが、単なる補充作業になっちゃったから。


 ザックもこの計画を始めてから自分で判断して、積極的に動くようになったと思う。サラとの仲も今のところはうまくいっているみたいだし、そういう意味では総合商店に感謝しないといけない。



 さて、これで開店日が楽しみになった。色々な意味で……ね……フフフ……。



(つづく……)

 

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