第3-2プラン:起業の産声! 成功のカギはサラとザック!?

 

 その後、私は今後の計画を大まかに説明するため、ふたりを奥の診察ブースへ案内した。昨日と同様に店番は店長にお願いする。こんなに私の都合で動いてもらっちゃって、これじゃどっちが店長なんだか分からないような気もするけど。


「さて、私がこれからやろうとしているのはテイクアウト専門店の経営。もちろん、そういうお店は町の中にもたくさんあるけど、既存店と違うのは『経営方式』と『取扱商品』かな。当面は何種類かのサンドイッチを基本に販売していくつもり」


「サンドイッチ……ですか……。そういえばこの商店街には飲食店はありますけど、弁当屋はないですね。うちの精肉店で扱っているのは、コロッケなど一部の揚げ物だけですし」


「お弁当屋さんというか、もっとライトな感じで食べ歩きがしやすいものを売るお店をイメージしてもらうといいかな。お客さんに食べ歩きをしてもらえれば、匂いと見た目で商品を宣伝してもらってることにもなるからね。お客さんがお客さんを呼ぶって感じ」


 それを聞いたふたりは、まるで双子であるかのようにほぼ同時に感嘆の声を上げた。続けてサラが私に問いかけてくる。


「セレーナさん、つまり商店街の中にそのお店を作って人を呼び込もうということですか?」


「それもあるけど、もし総合商店に似たような商品を販売されたら意味がないでしょ。だから『私たちにしか作れない商品』を売るの。そして材料は商店街の各店舗から仕入れることにすれば、サンドイッチが売れなかったとしてもそれぞれのお店は利益が出る」


「でもそれだと損害はセレーナさんのお店ばかりが被ることになるのでは……?」


「そのリスクは承知の上だよ。でもなんとしてでも売ってみせる。そのためにサラやザック、商店街のみんなの協力が必要なの」


「はい、私に出来ることならなんでもします!」


「ボクもです!」


 ふたりは顔を見合わせ、大きく頷いた。私としてもそれはなんとも心強い返事だ。


「商店街のお店にとってはサンドイッチが売れれば売れるほど材料の納品が多くなり、その利益が増える。しかももしサンドイッチが売れなかったとしても、それは私たちのお店が赤字になるだけでほかの各商店には損害が出ない。それなら協力してみようって商店街のみんなも思ってくれるでしょう」


「確かにそうですね! 私もそう思いますっ!」


「問題はその話を信じてくれるかどうかってこと。だからこそ商店街で商売をしている当事者であり、商店街のみんなに顔が利くサラやザックが一緒に説得してくれることが重要なの」


「なるほど……。私たちと商店街の皆さんはお互いによく知っていますから、話くらいは聞いてくれるはずですもんね」


 サラは納得したように大きく頷く。



 ――そう、これこそが今の私では絶対に出来ないこと。人の信用を得るのは一朝一夕にはいかない。だからサラとザックを味方に引き入れられなければ、今回の計画を成功させるのはほぼ不可能なのだ。


 さすがに店長だけで商店街のみんなを説得するのは荷が重すぎる。


 商店街で過ごした時間の長さもそうだけど、商店街の人たちにとって赤ん坊の頃から知っているサラとザックは家族のようなもの。情が移っていないはずがない。もちろん、全員がそうとは限らないけど、商店街加盟店組合の中での多数派を形成するには充分だ。


「でも材料の売上が出たとしても、それは各お店にとって微々たるものなんじゃないですか? 例えば、うちの精肉店で減った売上をカバーできるほど、セレーナさんのお店に商品を買ってもらえることはないでしょうし」


「ふふふ……いい着眼点ね、ザック。それが最初に言った『経営方式』によって、材料の販売以外でも各商店は儲けが出る仕組みになっているわけよ」


「なんですか、それ?」


「詳細は商店街加盟店組合の臨時会合でみんなに話すよ。招集は店長にしてもらうつもり。その時にサラとザックにもみんなの説得を手伝ってもらうからね。――じゃ、とりあえずサンドイッチ屋さんを運営する店舗を確保しに行きましょうか」


「場所は決めてあるんですか?」


「えぇ、この店の隣が空いているでしょ? そこなら市の施設やオフィス街が近いから、従業員さんがお昼時に利用しやすい。その分、住宅街から少し離れちゃうけど、サンドイッチ屋さんを利用しようとするなら途中に商店街がある。つまり各店舗でついで買いをしてくれる可能性が高まる」


 集客の核となる店舗は奥へ配置するのが基本。手前にあるとそこだけに立ち寄って帰ってしまうことが多いから。


 逆に限られた時間内で昼食をとらないといけないビジネス街の従業員さんにとっては、自分のオフィスから近い店の方が都合いい。


「なるほど、その位置ならオフィス街のお客さんを呼び込めるし、住宅街のお客さんには商店街で買い物をしてもらえるわけですね。一挙両得ってことですか」


「そういうこと。一応、商店街の以外でも少しは出張販売しようと思ってるけどね」


「出張販売……ですか……?」


「うん、そこで販売できるとおそらく本店や商品の宣伝にもなるしね。ま、それは私がひとりで進めておくよ。とりあえずはその本店の店舗を借りにいきましょう」


 こうして私は計画の説明を終えるとサラやザックとともに、隣の貸店舗のオーナーであるシャオさんの自宅へと向かったのだった。



(つづく……)

 

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