【第31話】乱入
志乃は怪我をすることなく無事に綾月公園に到着した。しかし、綾月公園は厳重警戒の状態で入場券がなければ入ることも出来なかった。そして今は警備に当たっている警察官と揉めていた。
「入らせてくださいー!」
「ダメに決まってるだろ! というか君学校は? その制服、天明学園の制服でしょ」
「抜け出してきました!」
「正直なのはいいけどさ、入場券なかったら入れないの。分かる? 言ってる意味」
「そこをなんとか」
「話が通じないよ……」
警察官3人に囲まれるが屈しない志乃。警察官たちは呆れ気味である。
中からは司会進行の人の声がする。
「吉谷総理大臣からお言葉をお願い致します」
「ええー、皇鬼様におかれましては大変良き日に……」
男の人の声がした。志乃は抵抗を辞め、耳を傾ける。
「続いては、皇鬼様からお言葉を頂戴致します」
「断木の儀は神絶の斧で神の宿る木を断ち切り、常世にお帰りするのを手伝う儀式だ。決して失礼のないように執り行え。以上」
どこかで聞いたことがある声。愛しい声。姿は見えないが、志乃は何故か愛しく感じた。そして、それは始まる。
「では、断木の儀を執り行う」
***
スピーチという名の命令を言い終わった皇鬼は自分の席に戻って、身に付けてきた紫色の宝石の耳飾りを触った。
「いよいよ始まるね。お別れしなくてもいいの?」
伊万里は皇鬼に問う。皇鬼は首を振って答えた。
「そういうを事すればするほど虚しくなるだけだ」
「あ、そう」
会話をしている2人をチラリと見ている者達がいた。女性国会議員たちだ。
「やはり、皇鬼様はお美しいですね……うっとりしてしまいます」
「結局、朧の会はどうなったのかしら」
ひそひそと話し声が聞こえた。人間達は聞こえないと思っているが、その場にいる妖達には聞こえていた。未桜は貴臣に話しかける。
「結局、どうにもなりませんでしたね、貴臣様」
「いっその事、誰か乱入してきませんかね……」
皇鬼は終始耳飾りを触っていた。
***
人だかりのせいで見えないが、大きな地鳴りがした。すると、大きな鬼の男達が登場する。皆、顔を面布で隠し、白い着物を着ている。その男たちが斧を持ち始めた。
志乃はマズいと思い、警察官がいるところから少し後ろに行った。
「やっと諦めたか……」
「大変だった……」
「あ、始まる」
警察官たちは気を抜いたのか、一瞬志乃から目を離した。その隙に志乃は変化を解き、鬼の姿になって踏ん張った。警察官たちもよく分からない力に反応して志乃に目をやった。
「その姿……」
「天津鬼……なのか!?」
「あ、こら……!」
「はああああぁぁぁぁ!」
志乃は声を上げて、地面を蹴る。トンッと音を立てて空中に飛んだ。空から見ると、大きな鬼は斧を振りかざしているところだった。
「……っ! おいで月詠夢幻!」
志乃は咄嗟に貴妖刀を出し、大勢の人々の飛び越え、千年桜の元へ降り立った。そしてありったけの力でその振りかざされた斧を止めた。
――ガキィンッ
大きな音が響いて、火花が散る。面布をつけた男も志乃の存在に気がついたのか、力を弛めた。
会場の人々は突然の事で驚きと恐怖を露にした。すぐに志乃の周りに警備に当たっているであろう大人たちが来た。
「はぁ、はー」
「お前は何者だ。テロリストか? テロリストでなくてもこの場に侵入したことは許されることでは無い。しかし、その姿……お前は天津鬼か」
その女性は学校で公演を行った東雲朱理という焔朝職員だった。志乃はその問い掛けを無視して千年桜に抱きつく。
「お前、今の状況がわかって……」
「千年桜……! あなたはこのままでいいの! 私はあなたがどう思ってるなんか知らない、でも私はあなたがいなくなると困るの! あなたは私達にとっては大切なものなの! あなたが居なくなったら、あの人との繋がりが無くなっちゃうでしょうが! あなたが諦めるなって言ったんだよ!」
「お前、千年桜に触るな……!」
大人たちに捕まる志乃。それを全力で振り払おうとする。
「離せ……! 私は、千年桜に用があるの!」
「離すなよ! くぅ、すごい力だ」
その様子を遠くの方から議員、妖達は見ていた。
「警備はどうなってるんだ! このあほんだれが!」
吉谷は周りの者達を罵倒する。そしてハッと我に返ったように皇鬼にゴマをすり始めた。
「皇鬼様、すぐに対処しますので……」
「五月蝿い」
肝心の皇鬼は侵入者である志乃を目を見開けて見ていた。
「まさか……あの方が」
「どうして君は……」
貴臣が言いかけると、皇鬼は泣きそうな顔をした。その顔に議員たちは驚愕する。
「離して!」
志乃は必死に抵抗し、やっと抜け出した。そしてメガネを外して、涙を流して千年桜に問いかける。
「あなたが諦めるなって言ったのに、あなたが諦めるなんて、都合良すぎるよ……」
そして千年桜を見上げてこう言った。
「ねぇ、お願いだから、お願いだから咲いてよ……」
ポタ、ポタ、と涙が千年桜にかかる。
そして桃の花弁はぶわりと舞い上がった。夢で見たものと同じように、くるくる、ひらりひらり、と舞を舞うかのように。海のように吹き荒れていく。
志乃は目を瞑った。少し経ってザワザワと声が聞こえだした。
「これは……」
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