04話
「せっかく新佐さんもいてくれているのに今日はやらないんですか?」
「んー……今日はいいや……」
「はぁ、この前までのやる気はどこにいってしまったんですかね、三時間もやっていたのに」
そうは言われても調子がいまいちなのだから無理なものは無理だ、いまはじっとしていたい気分だった。
「まあ、ふらふらしている希南がじっとしているのはいいことだろう、澄子、二人でやろう」
「分かりました、途中で参加したいと言ってきても受け入れてあげませんからね」
「んー」
「ふんっ、可愛げがない人ですね!」
よしよし、別に頭が痛いというわけではないから大声を出されても構わない、そちらに意識を向けてくれているということなら感謝しかない。
そういうのもあって静かな環境を利用して休むことにした、最終的には帰らなければならないのだとしても休んでおくだけで全く違うから彼女達の集中力次第だと言ってもいい。
そんなことを言われても知らないと、体調管理すらまともにできないのが悪いと言われそうだけどいまは頼るしかなかった。
それから大体一時間ぐらいが経過した頃、
「待て、なにかおかしくないか?」
と、唐突に朋世ちゃんが言葉を発したことで意識を持っていかれた。
あ、寝ようとしていたけど上手くいかなかった結果がこれだ。
「なにがおかしいんですか?」
「希南だ、突っ伏して休むなどらしくない」
「そうなんですか?」
別にそういうわけでもないけどね。
何度も言っているようにやりたいこと以外にはちょっと非協力的だったから突っ伏して休むことはあった、でも、どうしても避けられないから受け入れて動くしかなかったというだけのことだ。
「ああ、少し触れるぞ――やっぱりな、貴様も何故言わないのだ」
「んー……動きたくなかったし、邪魔をしたくなかったからだよ」
「すまない澄子、続きは希南の家で、でもいいか?」
「構いませんよ、仕方がないのでその人を運びましょう」
なんかそういうことになった、あと、逆効果になった。
彼女の背中にくっついているとき、これなら無理をしてでも帰っていた方がよかったと後悔をした。
私なんてこんなものだと自嘲することにもなった、半解決的なことがあってからこれぐらいすぐに似たようなことが起きるなんて悲しすぎる。
「さ、下ろすぞ」
「あ、床でもいい? どうせなら近くにいたいんだ」
「分かった」
布団を持ってきてちゃんと掛けておく、ああ、楽だ。
運んでくれたことにちゃんとお礼を言って目を閉じた、近くにいることを選んだけど構ってほしいわけではないからだ。
「これを使わせてもらおう」
「そうですね」
こちらがやらなければならないのは治すことということでご飯とか飲み物なんかよりも寝ることを優先した結果が、
「あ、真っ暗……」
これだった。
スマホはスカートのポケットに入れたままだったからすぐに時間を確認することができた、二十二時半、なんとも中途半端だ。
調子が悪いのをいいことに朝まで寝られたらよかったのにと思いつつも体を起こすと「起きたのか」と喋りかけられて飛び上がりそうになった。
「の、残ってくれていたんだ」
「ああ、そこに澄子もいるぞ」
「なんかごめん、夜更かしをしていたとかそういうことでもないんだけど調子が悪くなっちゃってさ、それで二人に迷惑をかけちゃった」
「ここに残る選択をしたのは私と澄子だ、希南がわがままを言った結果ではないのだから気にする必要はない」
普通に聞けばいいのにご飯はどうしたのかとか、お風呂はどうしたのとか聞けなかった。
もう問題はないけどまだ調子が悪いふりをして寝転ぶ、姉がいてくれているからそこら辺りはサポートしてくれただろうと信じて目を閉じた。
「もう大丈夫なのか?」
「うん」
「ならいい、だが、寝る前に飲み物を飲んだ方がいいぞ」
「分かった」
ついでにトイレも済ませてから戻ろうとしたらがしっと掴まれて足を止めることになった。
「あれ、まだこんなところにいたの?」
「まあね、それより大丈夫なの?」
「うん、よく寝たから治ったよ」
「その状態であんまり無理をさせたくないけどちょっと付き合って」
「ん? いいけど」
付いていくと「ここに座って」と。
話すのにいちいち立っている必要もないから素直に従うと「朋世ちゃんと澄子ちゃんにちゃんとお礼を言っておきな」と言ってきたから頷いた。
「希南の体調が悪いことなんてほとんどないから落ち着かなかったよ」
「ごめん、二人にも言ったけど夜更かしとかもしていなかったのに急に悪くなってさ」
「ま、元気になってくれたのならそれでいいよ、やっぱり希南は元気いっぱいでいてくれないと駄目だからね」
うん、それについては同意するしかない、あと、調子が悪いと今日みたいに迷惑をかけてしまうかもしれないから気を付けようと思う。
意識をしていても今回みたいに失敗することもあるけど夜更かしなんかをこれからもしないようにすればある程度はなんとかできるだろう。
ちょっと話は変わるけどテストが終わったら二人にお礼をしようと決め、挨拶をしてから部屋に戻ったのだった。
「起きてください」
「んー……あと五分……」
「抱きつかないでください」
温かくてよかったのにすぐに距離を作られて駄目になった。
ちゃんと体を起こしておはようと挨拶をすると「おはようございます」と返してくれた。
残ってくれたことにもお礼を言って制服に着替えようとすると「わ、私が出てからにしてくださいっ」と大袈裟な彼女がいた。
「終わったから入ってきていいよ」
「もう入りません、下に行きましょう」
「それは行くけど……って、朋世ちゃんは?」
姉とゆっくりお喋りがしたかったのか、こちらのことを考えて黙って出たのか、どちらでもいいけど顔が見たい。
「もう下に行っています、あなたのお姉さんと仲がいいみたいですからね」
「お、妬いているの?」
「は? はぁ、ここに残ったのは間違いだったようですね」
ま、冗談はともかくとして今日も学校があるから行動を開始しよう。
リビングに行ってみるとも朋世ちゃんがしゃもしゃ姉作のご飯を食べていたから見ていた、だってそういうことをしていないと暇だから仕方がない。
食べ終えたら必要なことを済ませて三人で外へ、もう七月ということでいい天気と熱気が迎えてくれる。
「もう二度と朋世さんが誘ってきてもこの人のお家に残ったりしません」
「はは、そうか」
「はい」
いいさ、これからがなくなろうと彼女が残ってくれたことには変わらないのだ。
ただただそのことが嬉しいし、朋世ちゃんの言うことなら聞くということで仲良くなれそうだからそれでよかった。
とりあえずゆっくりするためにも、ゆっくり仲良くしている二人を見るためにもテストが終わってくれればいいな、というところだ。
「それじゃあまた後でな」
「うん」
二人と別れて教室へ、そのタイミングで変なことが起きた。
「こっちの腕を掴んでどうしたの?」
そうこれだ。
問題児とかが相手なら分かるけど私相手にする意味がない、話の途中でもなかったのだから普通に離れるべきだった。
いやまあ、なにか用があるということなら言ってくれればいいんだけどさと内でぺらぺら喋って待つ。
「……本当にもう大丈夫なんですか?」
「え? あ、うん、元気だよ」
元気ではなかったら朝からじっとご飯を食べているところを見たりはしていないし、あのまま寝転んでいた。
体調が悪いときにあえて動くような人間ではないのだ。
「ならいいんですけど……」
「え、なんか本人よりも気にしている感じ?」
朋世ちゃんの場合でもしているはずだけどこういうのは嬉しくなかった。
そういうところを見せるのはもっと信用している相手だけでいい、なにもしていない私が見てしまえるのはよくない。
「……昨日、体調が悪いことも知らずに可愛げがないなどと言ってしまったので」
「ああ、気にする必要はないよ、それに事実、可愛げはないと思うよ」
「そんなことはありませんよ、可愛げがないのは私の方――なんで頭を撫でるんですか」
「そんなことを言っちゃ駄目、そういうことを言う度にこうするからね?」
「……ブーメランじゃないですか」
全くそんなことはない、無駄に下げようとするから駄目なのだ。
とにかくこそこそとしているようで嫌だから自分の教室に戻らせた、私は椅子に座って天井を見上げる。
朋世ちゃんがいるところでは自信満々に動けるということならずっといてもらいたいところだと言える、そして頼めば聞いてくれそうな気がした。
「澄子が突っ伏してしまったから来たぞ」
「早いね、あ、頼みたいことがあるんだけどさ」
が、全てを言い終える前に「その必要はないだろう、それとそのために希南といるわけではないぞ」と断られてしまった。
「希南」
「わ、分かったよ、だけどそんなに悲しそうな顔をしなくても……」
「だってそれ以外では必要がないみたいな言い方ではないか……」
「そんなことはないよ」
でも、繰り返される度に差が凄くてありえないけど風邪を引いてしまいそうになるのだ。
一気にマイナス方向に傾くのもよくない、ああいう顔も見たくない、そして今回も自力でなんとかできそうになかったから頼ったものの、結果はこれだ。
私にもう少しぐらいなんとかできる能力があったならと考えずにはいられない。
「私は昨日、申し訳ない気持ちもあったけど残ってくれていて嬉しかったよ」
「帰る気にはならなかった、澄子もわざわざ口にはしなかったが残ったことからも分かるように同じだったと思う」
「いつもありがとう」
「礼なんか言わなくていい」
なんか触れたくなったから手を伸ばしてみるとぎゅっと握られてしまった。
なんとも言えない時間が始まる、多分、既に登校してきている子がこれを見ているならなにをしているのかという感想になると思う。
「希南の手は熱いな」
「朋世ちゃんの手は冷たくて気持ちがいい」
「昔からそうなのだ、はは、夏には便利だな」
「じゃあこの夏で何回か借りるかも」
「いいぞ、貸してやろう」
夏休みに付き合ってもらうためにも朋世ちゃんのために絶対になにかをしておきたかった。
そのため、更にテストよ早く終わってくれという気持ちが強くなったのだった。
「はい、今日はデートをしましょう!」
「は?」
「で、デートは冗談だけどこの前のお礼がしたいんだよね」
遅くなって申し訳ない、だけどやっとちゃんとできる状態になった。
クオリティがどうであれお世話になったのならちゃんと返しておかなければ気持ちが悪いという話、そのため、嫌であっても今日だけは最後まで付き合ってもらいたい。
「はぁ、細かいことを気にするのは貴様もそうだったな」
「え、なんでそんなに不機嫌なの?」
「いきなり連れてこられたうえに変なことを言い出したから呆れているだけだ、不機嫌というわけではないぞ」
う、嘘くさぁ、だってその割には顔が怖いもん。
で、でもね、こうして連れ出してしまえばこっちのものだ。
このままなにもないまま終わらせたりはしない、自力でなんとかできることが少なくても自らチャンスを潰したりはしないのだよ。
「さ、お金は出すから欲しい物とかやりたいことがあったらどんどん言ってよ」
物欲というのがあまりないからお金はそれなりにある、今日は一万円を持ってきた。
一万円もあれば彼女が欲しがった物全てを買えなかった、なんてことにはならないだろう。
「それなら家に帰りたい、私は涼しくていいし、貴様はお金を使わなくて済む」
「そ、それじゃあ意味がないからっ、だっていつもしていることじゃんっ」
「つまり求めていないということだ、さ、早く行く――は、離せっ」
「いーやーだー! 今日は絶対にお礼をするって決めていたんだから!」
それこそ適当でもなんでもいい、合わせてくれればそれでいいのだ。
内側は複雑になるだろうけどどんな形であれお礼ができたという結果がほしかった。
抵抗すればするほど結果的に自分の時間を無駄に消費することになる、こちらは無駄に奪ってしまうことになってしまうのでお互いのためにも、ね。
「なにをしているんですか?」
「西米さんも協力して! というか、西米さんにもお礼がしたいから一緒にいて!」「澄子っ、こいつを私から離してくれ!」
「嫌です、それと他の人もいるんですから大声を出さないでください、迷惑ですよ」
「お、おう……」「澄子の言う通りだ……」
本屋さんに行くところみたいだったから彼女の腕を掴んで連れて行くことにした。
意識をしているわけではなくても西米さんも私にとっていいことばかりをしてくれている、欲しい本があるならそれを買わせてもらうことでお礼をしよう。
「あった」
「じゃあそれを買わせて――なんで抵抗するの?」
ありえないとは分かっていても引きちぎれてしまうかもしれないでしょうという目線を向けると「自分が欲しい物ぐらい自分で買います」と頑固なところを見せてくれた。
「いやいや、別にいいでしょそんなの」
「駄目です、そもそもあなたに買ってもらう理由がありませんから」
「それはこの前の――ああ……」
記憶喪失なのか? 間にテストがあったのだとしても流石に心配になってしまうレベルだ。
「ふっ、残念だったな、この件では希南がおかしいというだけだ」
そりゃまあ、動いてやったなどと自分から言えるような人は少ないだろうけどこちら的には本当にありがたかったのだ、こう……口先ばかりで信じられないということならもっとがつがつ行動する必要があるということなのだろうか?
「お待たせしました、それでこれからどうします?」
「私の家でもいいか?」
「はい、私は構いません……と言うよりもあまり外にいたくないのでその方がありがたいです」
待てっ、このまま家に行くことになってしまったら……。
「希南、行くぞ」
「駄目っ、通さないよ!」
「いいから行くぞ」
な、なんて力だ、留まろうとしているこちらを問題なく引っ張っていけるなんてすごすぎる。
いま暴れれば怪我に繋がってしまうかもしれない、仕方がない、今度また二人きりになったときにさせてもらうことにしよう。
それでいいのかと言われてしまうかもしれないけど友達でいられている間は期限が伸びていくため、致命傷になってしまう前に返せればそれでいいのだ。
「しまーす」「お邪魔します」
「いま飲み物を持ってくるから座って待っていてくれ」
「本を読んでもいいですか?」
「ああ、自由にしてくれ」
ま、マイペース……って、今日は約束をしていたわけではないし、新しく本を買ったのなら読みたくなるのは普通かと片付ける。
ただ、何故か飲み物を持ってきた朋世ちゃんがによによとやらしい笑みを浮かべていて意識を持っていかれた。
「絶対、などと言っていたくせにこうもあっさり諦めるとはな」
「うわーん! 朋世ちゃんが意地悪を言ってくるよぉ!」
「引っ張らないでくださいっ、まったくあなたはもうっ」
「西米さんも意地悪だったよー」
なんて、うざ絡みをしていないで大人しくしておこうか。
暑さに耐性があっても水分補給をちゃんとしなければならないことには変わらないから貰った飲み物を飲んで読書中の西米さんをじっと見ていた。
「邪魔をするな」
「だから黙って見ているんだよ」
「それで? 希南的に今日はどうしようとしていたのだ?」
「それは気になった物を買ったり食べたりして楽しくやれたらな~って感じだよ、西米さんと遭遇したのは本当にたまたまだったけど」
丁度よかった、でも、結局無理だったけど。
二人きりになると途端に弱々しくなるところを利用……と言ったら悪いかもしれないけどその力に頼ることでなんとかできそうなものの、朋世ちゃんの場合だと難しいというのが本当のところだった。
「別にいらないだろう、これまでだって改めて礼をしたりはしてこなかっただろう?」
「いやでも、こっちはお世話になっているわけなんだからありがとうだけで終わらせちゃうのはやっぱり違うでしょ」
「どうした、走れなくなってから弱くなってしまったな」
「い、いや、別に走れなくなったわけじゃないけどね……」
今日は彼女と遊ぶ約束をしていたから走っていなかっただけで明日からは走ると決めている、いっぱい汗をかいていい時間にするのだ。
「いいんじゃないですか?」
「ん?」
「日頃から古柴さんは朋世さんに迷惑をかけていそうなのでなにかしてもらえばいいんじゃないですか」
出た! いやでも狙ってもいないのにあっさりこうなってしまうのもそれはそれで変な笑いが出てきてしまうというかなんというか、馬鹿にしているわけではないけどもうちょっとぐらいは抑えるべきだと思う。
「迷惑……テンションが高いときにたまにうるさいと感じるだけで迷惑をかけられたことなど一度もないぞ」
「一度もないは言いすぎでしょう、それに我慢をして合わせるのがお友達というわけではありませんよ」
「我慢をして合わせる……か、そういうこともほとんどないからな」
逆に彼女は西米さんといるときにやたらと評価してくれる。
どちらも極端だ、そしてこの二人が言い合い的なことをしているところを見たくはないから止めておいた。
物凄く迷惑をかけてしまっているなどではなければ私のことなんてどうでもよかった。
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