第9話 たくさんの便利なものに驚く
……シャンプーや石鹸といった身体を洗う道具を教えてもらった俺は、シャワーを浴びる。
「うーん気持ち良い。こんな素晴らしいなものがこの世にあるなんてなぁ」
と、俺はシャワーを浴びながらカミソリという便利な道具で髭を剃っていく。
「こんなものかな? うん。綺麗に剃れた」
鏡で髭の剃り具合を確認した俺は、身体を洗ってシャワー室から出て身体を拭く。
それから服を着ようとするが、
「ん?」
もと着ていた服は無く、別の綺麗な服が置いてあった。
「新しい服か。ツクナが用意してくれたんだな」
前のはずいぶん長く着ていたし、新しいのがもらえるのは嬉しい限りだ。
新しい服を着た俺は部屋へ戻って来る。
「いやーすっきりした。シャンプーとか石鹸ってすごいな」
身体についていた汚れがすべて落ち切って、生まれたての赤ん坊にでも戻ったような心地だ。
「うむ。服もよく似合っておるぞ」
「ああ。これは軽くて着心地が良いよ」
「最新のカジュアルスタイルじゃ。格好良いぞ」
カジュアルスタイルはよくわからないが、ツクナはこの服装を見て満足そうだ。
「では、部屋にあるものの名前や使い方も教えておこうかの」
「お、そうだな」
使うたびに用途を教えてもらっては面倒だろう。触れてはいけないものもあるかもしれないし、部屋にあるものがどういうものかを先に教えてもらったほうがいい。
……それから1時間ほど使って部屋にあるものについて教えてもらう。
だいたいは覚えたが、まだちょっと不安だ。
「えっと、これが冷蔵庫。食べ物や飲み物を冷やして保存できる箱。あれがエアコン。部屋を暑すぎず寒すぎず快適な環境に保つもの……」
他にもいろいろ教えてもらったが、本当に信じられないほど便利なものばかりだ。
「全部ツクナが作ったのか?」
パソコンという箱とモニターという鏡みたいなものを使って、なにやら作業をしているツクナの背後に声をかける。
「いや、ここにあるほとんどのものは先達の科学者たちが作ったものじゃ」
「へー科学者っていっぱいいるんだなぁ」
つまり便利なものを作る人間たちが科学者か。
どういうものかだいぶわかってきた。
「天才と呼ばれるのはほんの一部じゃ。碌なものを作れないで終わる科学者がほとんどじゃよ」
「そうなんだな」
俺はソファーに座ってペットボトルの水を飲む。
「ちょっと腹も減ってきたな」
「んー? じゃあとりあえずこれでも舐めとれ」
「おっと。ん?」
先っぽに球体がついた小さい棒を投げ渡される。
「なにこれ?」
「ロリポップ。飴じゃよ」
「ロリポップ……」
よくわからないけど食べ物みたいだ。
「どうやって食べるんだ?」
「どうもこうも……こうやって丸いほうを口に含んで舐めればよいのじゃ」
「うん」
ツクナの真似をしてロリポップとやらを口に含む。
「んっ!?」
甘い。うまい。
「うまいじゃろ?」
「うまいっ」
果物のような味だ。
舌を動かすごとに口の中に幸せが広がるような心地になる。
「うまいなーこれ」
こんなにおいしくて不思議な食べ物や便利な道具があるなんて。
ツクナの生まれた世界と自分の生まれた世界の大きな違いを俺は感じた。
「ツクナ、お前はどんな世界で生まれ育ったんだ?」
「それをハバンがわかるように説明するのは難しいのう。ツクナの世界とお前の世界では文明のレベルが違い過ぎるからの」
「そうかぁ」
ツクナの生まれ育った世界とはどんなところなのだろう? 想像しても、いろいろ便利なものがいっぱいあるところなのかなーくらいしか俺にはわからない。
「まあそのうち連れて行ってやるのじゃ」
「お、それは楽しみだな」
「うむ。まあそれはそうと……」
イスを回転させてツクナがこちらを向く。
「今後ツクナの役に立ちたいならば、覚えてもらうこともあるの」
「もちろんだ。それで、なにを覚えればいい?」
「まあ焦るな。今日は疲れがあるじゃろうから、明日でいいじゃろう」
と、ツクナはイスから立ち上がる。
「飯にするかの。それでは腹が膨れんじゃろ
「あ、うん」
このロリポップという食べ物、うまいけど確かに腹は満たされない。
「今日は餃子とチャーハンでよいか」
そう言いながらツクナは壁についているたくさんの小さな出っ張りをポンポン押す。
「お」
ソファーの前にあるテーブルに四角い穴が現れ、そこから食べ物がせり上がってくる。
「これは便利だな」
「うむ。さあ食うかの」
2人で食事を始め、食べ終わってお茶を飲んでいると眠気がやってくる。
「そろそろ眠くなってきたな」
そういえば寝るつもりだったんだと思い出す。
「ではハバンの寝室を作ってやるかの」
「えっ? 部屋を作る?」
今から寝るのにこれから作るのか?
どうやって作るんだろうと思っていると、
「来い」
と言われてツクナについて行く。
部屋にある扉を開き、まっすぐ進むと突き当りの左側にまた扉があった。
「ここか?」
「こっちはツクナの寝室じゃ。ハバンのは今から作る」
「今からって……ん? なんだその出っ張りは?」
突き当りの壁に小さな出っ張りを見つける。
「出っ張りではなくボタンというほうが正しいのう」
「ボタン……」
ツクナがそれを押すと、壁が横に反転してパソコンとモニターが現れる。
それを操作すると……。
「うおっ!?」
左の扉の向かい側の壁に同じ扉が突如として出現する。
「できたぞ。入ってみるのじゃ」
「えっ?」
言われて扉を開く。
「お、おお……」
目の前には広い部屋があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます