第26話 奈々の懺悔
「な、なんでここに居るの? ……お母さん」
お母さん!?
この人が奈々のお母さん!?
ってことは後ろにいるのは……。
「美々の成長の為のダンジョン攻略に来ていたのよ? あなたを受け入れてくれるパーティなんてあったのね? 物好きな人も居たものだわ」
「ぐっ……」
奈々は悔しそうに歯を食いしばって震えている。
奈々。
大丈夫。
僕達は奈々を必要としているよ?
「お言葉ですが、奈々は僕達のパーティには欠かせない存在です。逆に、僕達を受け入れてくれたのが奈々です。心が広くて、明るい。そこに救われているのは僕達です」
「ふぅーん。男に囲まれて楽しそうね? 反吐が出るわ」
この人何を聞いているんだろう。
僕の話が理解出来ていないみたいだね。
こういう人は放って置くほうがいい。
「話しても無駄だね。奈々行こう」
「私の元から離れて少し魔法が使えるようになってけれど、パーティではランカーに名を連ねたようだけど、調子に乗らない事ね! ウチの美々がトップランカーになるわ!」
奈々の腕を取りその場を去ろうとするといきなり大きな声を出した母親。
そのまま避けるように通り過ぎる。
「奈々をよろしく」
小さな声で放たれたその言葉は僕の耳にしか届いていなかっただろう。
振り返るとエメラルドグリーンの髪を揺らしてこちらを見ていた女の子がパチンッとウインクする。
少し見蕩れてしまった。
かぶりを振って母親達と違う方に進む。
あの子は味方なのかな。
奈々の妹?姉?
同じような背格好だったけど。
少し早歩きで歩いたために直ぐに母親達は見えなくなった。
奈々の母親がまさか同じダンジョンにダンジョン攻略に来ていたとは。
それに、あの言い方。
癪に障るような言い方だった。
一体何があったんだ?
「収斗。ありがと……私……」
「奈々、無理には聞かないよ?」
「ううん。話しておかなきゃって思ってたんだ。実はね……」
ダンジョンの一角に陣取り、辺りを警戒しながらだが、奈々が自分の話を話し始めた。
◇◆◇
あの頃は私のスキルがまだ有用だと信じていたんだよね。
「大丈夫だ。奈々は必ずママみたいな凄い魔法使いになるぞ? そして、俺達の果たせなかった夢のランカーになるんだ!」
そう父は言った。
この頃の父の口癖で、ランカーになれ。
そればかり言われて育った。
妹の美々は双子でエメラルドグリーンの髪がとても綺麗。
優しくていつも私を励ましてくれていた。
私達双子はどちらもSランクスキルの保持者とされて持て囃された。
美々は七属性魔法のスキルで文字通り全属性の魔法を使えた。初級、中級、上級魔法も使えるようになっていったの。
それに比べて、私は一向に初級魔法しか使えない。
でも、みんな諦めるな。
使えるようになる。
そう言って一緒に鍛錬した。
でも、ある日。
それは突然終わりを迎えた。
「俺の夢は違う人と叶える。お前達とでは無理だ。足でまといがいるからな」
そう言葉を残して父親は私達の元を去っていった。
母親は一応、私を捨てずに育ててくれた。
けど、その日から当たりが強くなっていった。
後からわかった事だけど、父親は他の優秀な冒険者との間に子供ができたんだそうだ。
それで出ていったみたい。
嫌味を言われるのは日常茶飯事。
「早く魔法を使えるようになるのよ! 足でまとい! そうすればあの人は戻ってくる!」
そう言ってスパルタの鍛錬の日々だった。
撃てなくなるまで魔法を撃たされて、出されるご飯は少しだけ。
いつも美々が分けてくれていたの。
ダンジョンに潜れる様な年になった時。
私は耐えられたくなって家を出たの。
あんなに優しくしてくれた美々を残して。
それだけが心残りだった。
美々は酷いことされていないだろうか。
美々のことは忘れたことは無い。
離れたくて、地方に行ったの。
それが功を奏して周りの人の温かさに心が溶かされていった。
そこで出会ったのが収斗。
賢人も猛もみんな私を受け入れてくれて嬉しかった。
だから甘えてパーティに入った。
それからの日々は楽しかった。
だから、迷京都に行こうってなった時。
会うことになりそうだったから躊躇ったの。
けど、皆とは離れられなかった。
もう一人の孤独には戻れなかった。
みんなの温かさを知ってしまったから。
「私……甘えてるの……ごめんね……」
奈々の言葉にしばらく沈黙する。
「なんでごめんねなの?」
僕が切り出した。
「なんでって、私は自分可愛さにみんなに甘えてたんだよ!?」
「ふーん。奈々、でもさ、僕の事も皆のことも奈々が受け入れてくれたでしょ? 僕達も奈々に甘えてるんだよ?」
「ったく。今更かよ? 俺達はそういうもんだろうが」
「なんで今更っすか? 明鏡止水は、そういう集まりっすよね?」
僕の言葉の後に、賢人と猛が口々に自分の気持ちを吐露する。
少し安心した。
みんな僕と同じような気持ちだったんだ。
そうだよね。
このパーティは、みんなで支え合ってるんだもん。
「私……このパーティに居てもいいの?」
「……当たり前でしょ? 居てくれないと遠距離職居なくて困るんだけど?」
奈々の問いに僕は諭すように答える。
「俺達の背中に居ないと俺達だけじゃ攻めきれねぇだろ?」
「自分が守るっすから! 安心してくださいっす!」
この賢人と猛が励ますように元気付ける。
「ぐずっ。……ありがどう」
「奈々。少し休んだら、このダンジョン攻略するよ?」
「ゔんっ」
奈々の心のつっかえがわかって。
みんなで励ましあえたことで、このパーティはより一層一体感が深まったのであった。
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