第十話「怖いなぁ」


 昼飯を一緒に食べるチームに、レンとてつ、そして帷子と菜那さんと艮が加わった。

 気を許すのが早すぎるかもしれないけど、少し不用心かもしれないけど、頼れるものには頼って、利用できるものは利用させて貰うのがポリシーの私としては、今の状況はとても好都合だった。


「ねえねえ、あのさ、もっかいここで起きた出来事整理しない?」


 昼飯を食べていた時、焼きそばを食べていたレンが唐突に口を開いた。

「女について?」

 私がそう尋ねると、レンは頷いてから焼きそばの横に添えられている紅生姜を口に運んだ。

「暴力事件を2回起こして、そのうち1回は去年の五月、2回目は今年の三月だったよね」

 レンと同じく、焼きそばを口に運んでいた環が箸を止め、ゆっくりと状況を整理し始める。


「今年の三月の事件は目撃者0なんすよね?」

 ラーメンを食べている、環の隣に座っているてつがそう言うと、てつの向かいに座っているワキノブが頷いた。

「昨日姉様に多少の都合をかいつまんで説明してから聞いてみたら「知らない」って言っていました」


 ワキノブ、大好きな姉様に聞いてくれたのか…有り難いな。

 でも。

「三年の…例の女の知り合いさえも三月の事は分からないのか」

 私がそう言うと、皆がグッと黙り込んでしまった。


 本当…マジで…三月に何があったんだ?

「……本当…謎だね」

 松田と仲が良さげな澁澤も知らなそうだし、大怪我を追った兄貴には聞くにも聞けないな。

 松田も同様に…というか、あいつは昔から何を考えてるか分からない奴だからあんまり近付きたくないのが本音だ。


「……」


 本当に、マジで分からないな…。

 例の女はなんで三月にも暴行事件を起こした?というかそもそも起こしたのは本当に例の女なのか?

 例の女が三月の一件に何も関わってなかったとしたら?

 もし関わっていなかったとしたら、五月の一件に濃く絡んでいる筈の女が、どうして三月の一件に関わらなかったんだ?




 皆がグッと黙り込み、さっきまで帷子の偏りまくった女性遍歴で盛り上がっていた暖かな雰囲気が壊れ始めた。


 どう、しようか。


「帷子君、先月まで付き合ってた女の子の話して」

 一発ギャグでもしようか、いやそれは流石に空気読めないな、なんて考えていると、菜那さんが自分の向かいに座っている帷子にこう声をかけた。

「え?あー…家で茄子を栽培してた子、名前は観月ちゃん」

 さらっと元彼女の名前を言う帷子に、目を見開いて驚くうどんを食べていた艮。

「プライバシー…」

 やっぱり見た目からは考えられないくらい…温厚だな、艮は。


「観月……あー!違うよ!その子だけどその話じゃない!」

 ずっと帷子の方を向き指を折りながら何かを数えている菜那さん。

 帷子は菜那さんをじっと見つめてから頷き、何かに納得しこう言った。


「何だ?…あー!僕があげたリップを僕の目の前で素揚げにして食ったって話?」

「えぇ…?さっきのメリーゴーランドの女のよりも癖強いな…」

「帷子君それ見てなんて言ったんだっけ?観月さんに!」

「美味しい?ならよかったって」

「受け入れるなよ…」

「帷子さんもなかなかに癖強いっすね」

「類は友を呼ぶ」

「沢田さんが最近覚えた単語だ」

「黙れワキノブ」

「類は友を呼ぶを最近覚えたの?かわいい…賢いね…」


 なんか、ちょっと…空気が解れたな。

 良かった、流石菜那さん。

 菜那さんも結構回りを見れるタイプなんだな、でも基本は猪突猛進タイプだから帷子っていうストッパーがいて良かった。


 みんなが帷子の話に気を取られ、例の女のせいでさっきまで空気が沈んでいたことなんて忘れてしまった時、菜那さんが唐揚げを食べていた箸を置き、私の方へ身体を向け、こう尋ねてきた。


「華菜ちゃん、華菜ちゃんさ、前、必要な場合は暴力に頼ることもあるかもしれないって言ってたよね?」

 質問の意図が読めず黙ってしまうと、レンや澁澤が私と菜那さんを交互に見つめてから眉間に皺を寄せた。


「頼ることもあるかもしれないけど…出来る限り、取りたくはないです」

 私がそう答えると、菜那さんは頷いてから

「必要になるかもしれないんだよ、華菜ちゃんが良いなら」と言った。


「どういう意味…?誰を…痛い目に遭わせるの?」

 怯えながらそう尋ねる艮に、菜那さんが首を横に振った。


「フリだよ、フリ!誰も怪我しないし、騒ぎが起こればそれでいいの」

「何が言いたいんですか…?私あんまり察し良くなくて…はっきり言ってくれませんか?」

「じゃあはっきり言うよ?去年の五月みたいに、私達も暴行事件、起こしてみない?」

「は…はい?」





──────────





 上納金はここんとこ常にトップ。いつもの…とか、あの集会ん時みたいに言ったって、私が女である以上、私がトップに立つのなんてとんだ夢物語なんだろうな。

 現に、実力があって、利口で、伝説とまで言われた私の母親でもトップにはなれなかった。


 彼女が望んでいたかは別として。


 しばらく悩んでから、淹れたての紅茶を口にした。

「…おいしいな…流石パラ…」

 もう一口飲み、また、考える。


「ねぇ、もうすぐまた無意味な集会始まるよ」

 悩む私の肩を叩く幼馴染。


「サボっていいかな?」

 私がそう言うと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「いいじゃん!カラオケ行こうよ」


「おぉ、カラオケ良いな…」


「それかカフェ巡りする?駅前のとこアフタヌーンティーあるらしいよ」


「何それ行きたいサボる」


「よっしゃ!じゃあ私着替え用意するね!」


 彼女といると、何というか、楽だな。素で居られるというか、何というか。



ただただ、大好きだな。



「そういえばさ、あの、例の噂話」


「うん、広めたのうちやで」


「誰にチクったの?」


「明人やで、あいつ今なんかめっちゃモテてるからお願いしてみたら「いいよ~」って」


「マジで優しいよね…流石私の天使…」


 大きく息を吸い込んだ

 胸に満ちるは酸素、そして期待


 私が今ここで力尽きようが灰になろうが彼女の針路には何の障害もなく

 我々は只その場に居た




彼女に会いたい




「澁澤と華菜ちゃんが絡んじゃってることは…的にはそんな大した問題じゃないわけ?」


「うん、寧ろ狙い通りでありがとうって感じ」


「うわー怖」


「怖いやろ~!」


「ふふ…うん…怖い…」


「あと…それにうち出来るだけ関わりたく無いねん」


「なんで?」


「やってさ?」


「うん」


「うち澁澤の事死ぬほど嫌いやし」



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