第七話「額塚と帷子」
廉の知り合いの二人と会う日。
澁澤と同じく、上学年のクラスに呼ぶと怖がるんじゃないかと気遣ってくれた優しい廉の言葉通り、授業終わり、広い上に景色が良いのに何故か人気がない中庭に4人で集まった。
「廉はまだか」
「前から思ってたんすけど廉さんって時間守れないっすよね」
「時間にルーズな人嫌いです」
「お前今日遅刻してたじゃん」
「それとこれとは別」
「別じゃないでしょ」
「別じゃないと思うっすよ」
「別じゃねえだろ」
「ボロクソじゃないですか、流石に泣きますよ」
あの事件の目撃者と会うのか、なんてめちゃくちゃに緊張していた私がバカみたいだ。
この三人が、特にワキノブが居てくれてよかった、私よりアホだし。なんて考えていると、笑顔の廉が派手な見た目の二人を連れてきた。
「かなちゃん、こちら、額塚ちゃんと…帷子くんだよ」
見た目の通り名前もいかつい二人組だった。
正面から見て右分けの肩までの黒髪で、シャツの下に黒シャツを着た上にレザーのチョーカーをつけている額塚という女。
銀髪で襟足が長く、前髪は正面から見て左分けで、口と耳のピアスがチェーンで繋がっている、タレ目で、ブレザーの下に黒のパーカーを着ている帷子という男。
「お二人はバンドマンか何かですか?」
「もともと音楽やってたよ」
「息を吐くように嘘つかないで額塚ちゃん、ワキノブ君信じちゃうから」
「なんで私なんですか…」
廉はすぐ友達作れてすごいな、てかワキノブ、廉には萎縮してたのにこの二人は怖くないのかよ、なんて事を考えていると、額塚と呼ばれた黒髪の女が私の方を向き、長々と変な事を言い始めた。
「あ、君確かあれだよね?入学式で茶髪の子居た!高校デビューだ!って話題になった上にクラス票の前で騒ぎ起こしてみんなから「どちゃくそ乱暴な女の子だ」「新入生をはちゃめちゃに蹴散らした女」って呼ばれて話題になってる沢田華菜ちゃん!」
「え、あ、そ、そうですけど」
「智明さんは私が一年の時に女絡みの暴力事件起こした!って話題になってたからさ?「うわー兄妹揃って乱暴なのかよ!」「そんな子と私が会うの!?」「会った瞬間殴られたらどうしよ!」なーんて思ってたけど意外と優しそうだし空気読める子で安心したよ!」
「そ、そうなんですね」
「そうだよー!私額塚!すくもづかね!「難読漢字じゃん!」「がくづかって呼ぶね」とか言われてちょーっと落ち込みマンなんだけど華菜ちゃんマンは好きに呼んでくれて良いっすからね!あ、廉君の口癖移っちゃったあははは!」
「あはは…」
「そういえば智明さんが暴力事件起こしてからしばらく休んで、また来はじめた時あったんだけどさ~帷子君、あ、この銀髪ね?帷子君と一緒に見に行ったんだよね~その時「智明さんって結構イケメンだよね」って二人で話してたんだ!まあ私その時他に好きな人いたからそういう恋愛?みたいな感情にはならなかったんだけど」
なんというか、す、すごい、圧。
兄貴モテてると思ったらすぐ振られたし。
「額塚、華菜ちゃんが引いてるよ?いくら緊張してたからって圧かけて誤魔化そうとしないの」
そんな額塚を止める帷子と呼ばれた銀髪の男。
「えーでも緊張してたのは帷子君も同じでしょ?だって会う前ずっと緊張して「どんな子なんだろう」「怖いけど楽しみ」ってしつこいくらいに連呼してたのは誰かな?」
「それはそうだけど初対面でいつもの言葉数での威圧はダメだと思う、だって考えてもみなよ、初対面の人が突然ずらずら長文で話し始めたらどう思う?怖いでしょ?下学年の子なんだからちゃんと年上として気を遣ってあげなきゃダメだってしつこいくらい言ってるんだからちゃんと背筋伸ばしてしっかりしなきゃいけないでしょ」
「でも帷子君だってそうやって私を威圧して」
「うるせえな!!!アホ二人!!!」
その後、アホ二人の長い話は日暮れまで続き、疲弊した様子のワキノブが小さくこう呟いた。
「…お二人の話を要約すると、華菜さんは怖くなくて、智明さんはイケメンで…暴力事件の目撃者はみんな気味悪がって話したがらない…と」
「そうなんだよね、なんか仲良くなってるからみんな」
「黙っていただけます?」
「はーい…帷子君…この子可愛い…」
「もう額塚の対応方法学んじゃったね、花脇君…」
呑気な額塚に、温厚そうに見えて冷静な帷子…か。
例の女についての大きな収穫はなかったけど、この二人が味方についてくれたら心強いかもな。
拳をぐっと固く握りしめ、ワキノブに家族構成や彼女の有無を聞いている二人へ、シンプルに、こう頼んでみることにした。
「あの、例の女に対抗するために情報を集めてて」
首を傾げる帷子。
「例の女?」
「はい、あの…暴力事件に、なにか、訳ありの女が関わってるんじゃないかって推理して…その女に、対抗する手段を模索してるんです…協力してくれませんか?」
そう言ってから少し首を傾げてみる。
すると、額塚と帷子が顔を見合わせてから、一度頷いた。
「もちろん!」
「ほ、本当…?」
「嫌だよ?」
「怖いもんね」
「あぁ…」
やっぱ詳しく分かんない状態で協力しろなんて無理があったな…でも、どうしようか…。
仲間になってくれたら心強いと思ったのにな…と考えていると、ワキノブが私の顔をちらりと見てから、帰ろうとしている二人を呼び止めた。
「あの、詳しく話を聞いてから判断してくれませんか・」
ゆっくり振り返る額塚。
「私は無理、今日昔からの知り合いに会わなきゃいけないから」
「あぁ…」
じゃあなんで今ここに居んだよと言いかけてやめた。
流石に…
「じゃあなんで今ここにいるんです?」
「しのぶくん…」
驚くレンに、額塚とワキノブを交互に見るてつ。
ワキノブ…お前…。ワキノブの小さい背中がやけに逞しく見えるな…。
「廉さんがお二人を呼んだ口実、というか、セリフ?口説き文句…みたいなものは分かりませんけど、少なくとも貴方方を揶揄うためじゃないというのは分かっているでしょうし…」
首を傾げる額塚。
「何が言いたいの?」
大きく息を吐くワキノブ。
「私達も別に暇というわけじゃない…今日だってお二人と会う予定が無ければテスト勉強が出来ていました」
「…は?」
「お二人が遊び半分で私たちに会いに来たのなら帰って知り合いにでも何にでも会えばいい」
「…」
「華菜さんのお兄さんが…あんた名前なんだっけ?がくづかでしたっけ?がくづかさんが言うイケメンの兄貴が酷い目に合うかもしれないのを、ただ傍観者として指を咥えて見ていればいい」
「…」
「そうなったとして、関係者として話を聞かれる場面がもしあったとしたら、遊び半分で僕たちを弄んだ最低の先輩としてあんたら二人の名前を出してやる」
「弄んだって…」
「それもこれも。あんたらが今帰ったらの話です」
「…」
「…ねぇ、すくもづかさん」
長い沈黙。
二人が小さい声で話し合い、ワキノブの顔を見つめてから、帷子がこう答えた。
「…分かったよ…最低な先輩にはなりたくないからね」
「協力できる話なら聞くけど、力になれるかどうかは分かんないからね」
…わぁ…。
「ありがとうね、帷子君…額塚さん…」
「あ、ありがとうございます……ワキノブ…お前…凄いな…」
「…でしょ?」
「マジ……お前が居て良かったわ……」
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