第六話「よかった」
華菜ちゃんと忍君の二人に知り合いを紹介する事になった。
弟と妹ができたみたいで嬉しかったせいか、ついついはしゃいでしまって忍君と華菜ちゃんには迷惑がられてしまったけれど、俺は俺なりに二人に協力しようと思う。
女の恐ろしさを、女の素顔を知っているからこそ、あの二人を悲しい目に遭わせたくなくて。
真実を、知って、ほしくて。
一年生であるあの二人を上学年のクラスに呼ぶわけにはいかないかも、と思った俺は、とりあえず、人当たりが良い友達を紹介することにした。
三年であり、二年でもある、あの人を。
「たまきくん、その子が例の女について嗅ぎ回ってる子?こんにちは」
俺が選んだ人間は、昨年、違うクラスだったにも限らず、ずっと俺と仲良くしてくれた扇廉君だった。
金髪で、前髪をポンパドールにし、下唇に二つ、右耳と左耳に五つずつピアスを開けていて、ワイシャツのボタンを二つ開け、ズボンを右足だけ膝まで折り、何故か便所サンダルをはいている彼。
「えぇ……」
廉君の見た目に少し萎縮している忍君を見て「あ、人選間違えたかも」と思った。
だけど、華菜ちゃんは一ミリも萎縮する様子を見せず、廉君へドストレートにこう尋ねた。
「あの事件の目撃者なんですか?」
「そだよ~」
認める廉君。
「マジ……?」
それを聞いた華菜ちゃんと忍君は顔をぐっと見合わせ、小声で相談してから恐る恐るこう尋ねた。
「例の女の、関係者ですか?」
「そだよ~」
認める廉君。
また顔を見合わせ小声で相談する華菜ちゃんと忍君。
廉君は二人の動きが可愛いのか、優しく微笑んでからこう言った。
「関係者っていうか、関係者の関係者って感じだよ」
「関係者の関係者?」
「うん、例の女の、友達の、友達!」
廉君を見つめる二人。
「うん、だから、彼が一番事件に詳しいんじゃないかな、と思って紹介したんだよ」
そう言いながら廉君の背をとんとんと叩くと、廉君は嬉しそうに頷いた。
「……なんで、詳しいんですか?」
「ぼく二年生二回目だから」
「あぁー…」
授業終わりに俺の弟のような存在である丸岡徹も呼び、学校近くにある静かなカフェへ三人を連れて行った。
「例の女についてなんで嗅ぎ回ってんすか?」
華菜ちゃんにストレートにそう尋ねる、黒髪の短髪で第一ボタンのみを開けた徹。
華菜ちゃんは少し黙ってから、兄の名前を口にした。
「私の兄貴の智明が、女に利用されてるような気がして」
「智明…?もしかして、貴方、沢田華菜…?」
恐る恐るそう尋ねる徹。
華菜ちゃんは眉間に皺を寄せ、徹に怒鳴った。
「まだクラス票でのあれ引き摺られてんの!?」
「……蹴散らした」
「ワキノブ笑うな!」
二人を見て微笑む廉君に、沢田という名を繰り返し呟く徹。
ブラックコーヒーを飲み、おもちゃを取り合う小型犬のように喧嘩している二人を見ていると、しばらく何かを考えていた徹が口を開いた。
「例の女については、知ってます、俺もあいつめちゃくちゃ怖いんで…」
「やっぱり…?」
「蹴散らしたさん、あ間違った、沢田さんの言う通り驚異になる人なんですか?」
「しょーもな」
「ふふふ…蹴散らしたさんだって…」
「たまきくんツボ浅いよね」
「アホ浅い」
そんな感じで四人で好きに話してから、やっと本題に入ったのは少しだけ日が暮れてからだった。
最初に口を開いたのは廉君。
「明日が良い?明後日が良い?二年生の友達の紹介!」
廉君の言葉を聞き、アイスレモンティーを飲みながら一度唸り、都合の良い日で良いと答える華菜ちゃん。
それを聞いた徹がこう言う。
「いつでもいいってのが一番困るんすよね、廉さん」
「ほんとにね~」
「なんだそれ…あー、じゃあ今だ今」
「あー、今はちょっと…」
「なんだよそれ…明日なら良いか?」
「りょうかい、明日ね」
誰とでも公平に話せる華菜ちゃん。
俺を慕ってくれる徹。
俺なんかと仲良くしてくれる廉君。
三人が話しているのをじっと見ている内向型な忍君。
バランスの良い四人かもな、なんて思いながら、ふと、あの女の顔を思い出す。
あの女と仲良しな五人を思い出す。
「廉髪染めてんの?地毛?」
「染めてる~、今度ピンクにしようかな」
「へえ、ブリーチ何回した?」
「3回!大号泣したよ」
「髪切れそう、私一回ブリーチして茶色入れた」
「高校デビューだねー」
「やめろ、改めて言われると恥ずかしいから」
「ぼくは中学デビュー」
「クソ不良じゃん」
いつの間にか敬語が取れている華菜ちゃんと廉君。
よかった。華菜ちゃんに、友達が出来てよかった。
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