二章
第五話「あの女に」
高校に通い始め、ワキノブとの二人と知り合って、ちょうど二週間が経過した。
私は、勉強が難しくて悶えては澁澤に教えて貰い、ワキノブが意外と馬鹿でそのギャップに驚いたりもしている、平凡な日々を過ごしている。
そんなある日、学食で、ワキノブがサンドウィッチを食べながらこんな言葉を口にした。
「私ずっと考えてたんですけど、例の、女だとか暴力事件だとか色々あるじゃないですか?」
「あるな」
唐揚げを食べながら相槌を打つと、澁澤は、私の隣でラーメンを食べながら数回頷いた。
言葉を続けるワキノブ。
「で、女が一体どんな存在で、どれだけ力を持ってるか分からないじゃないですか?だからこそ…事件の事をよく知ってる人間に当たった方がいいんじゃないかな、って…」
事件の事をよく知る存在…。
「例えば?私の兄貴とか、ボス候補の奴らか?」
そう尋ねると、ワキノブは首を横に振り
「そうじゃなくて…目撃者の事です」
と言った。
「目撃者?」
首を傾げる澁澤。
「はい、二年か三年の誰か目撃者に話を聞いて、その人を味方に付けた方が、これから先、例の女と対立する事があったとしたら…何かの助けになるんじゃないかなって」
言い終わると、ワキノブはサンドウィッチを齧り、私達二人を交互に見つめた。
「……それも、そうだな…」
ワキノブの言う通り、私達三人では分からない範囲の出来事もあるし、私達以外の視点があった方がここから先助かるかもしれないな。
同意しようと顔を上げると、澁澤も、私と同じ考えなのかワキノブの方を見ながら何度も頷いた。
「忍君めちゃくちゃ賢いね、その頭脳を勉強に使えたらいいのに…」
「ふふ…」
「し…澁澤さん…沢田さんも笑わないで!」
「いいじゃん、マジ天才だと思うわ、じゃあそれぞれで話を聞いてくれそうな人探してみる?」
私がそう言うと、澁澤が声を上げた。
「三年なら俺に任せて、二年には知り合いがいるからその人に当たってみるよ」
その言葉を聞き、ワキノブと二人で顔を見合わせる。
「?どうしたの?」
不思議そうに首を傾げる澁澤。
「…澁澤さ、あの…なんで、そんな親切にしてくれんの?」
思い切って私がそう尋ねると、澁澤は目を真ん丸にした。
「親切に、って?」
「だから、知り合ってたった二週間だろ?なんでそんなに私達に協力してくれるんだよ」
私の言葉に、更に不思議そうな顔をする澁澤。
「ええ?」
こいつマジ察し悪いな…と呆れながら、どう言ったらこいつが出来るだけ傷付かないかを考えていると、ワキノブが口を開いた。
「疑わしいんですよ、あの女の仲間じゃないかって」
「ワキノブ!」
「なんで遠慮するんですか」
「だって…」
こいつを傷付けたくないからだ、と言おうとした時、澁澤が、謝罪の言葉を口にした。
「…ごめん、余計なお世話だったね…疑う気持ちも分かるよ」
「澁澤…ワキノブ謝れ」
「嫌です」
「謝らなくていいよ…あのね、俺は…あの女の恐ろしさというか、怖さを、誰よりも知ってるからこそ…君たち二人を放っておけないんだ」
そう言いながら少し俯く澁澤。
澁澤は言葉を続ける。
「…凄いんだよ、人を操る術に長けているとか、嘘をつくのが上手いとかそんな次元じゃない」
「……」
「…あの女ができるのは、洗脳だよ」
洗、脳。
ざわりと立つ鳥肌。
「だからと言って、貴方が例の女に洗脳されていないとも限らない」
ワキノブがそう言い放つと、澁澤は悲しそうに、でもどこか、嬉しそうにこう呟いた。
「それは100%無いよ、だって…」
「だって?」
「俺は、あの女に……」
「……あの女に?」
「…」
澁澤は、何かを言おうとしてやめた。
「…とりあえず、ご飯食べ終わったら一緒に三年のクラス行こっか!」
「え、あ……」
「ついでに楓さんと智明さんにも会いにいこうか、きっと喜ぶよあの二人!」
と、必死で取り繕う澁澤。
大急ぎでラーメンを食べ終わり、駆け足で片付けに行く澁澤。
その後ろ姿を見ながら、ワキノブと二人で話し合う。
「…走る姿間抜けですね」
「ガキ大将みたいな走り方」
「ねぇ、澁澤さん…何を、言おうとしたんですかね」
「…分からん」
「…なんか、変な人ですよね」
「な…」
「知り合わない方が良かったかも」
「……かもな」
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