第四話「DIVA」




 ピリピリとした空気、貧乏揺すりの音。俺の親父の溜め息。

 集会では定番の景色。


「あの、いい加減話しませんか?こんな無駄な事にご子息さんの時間使ったらダメでしょう!今年受験生なんやから…」

 うちの組織で、プロレスで言うヒール役として存在している組の親父さんがそう言った瞬間、ピリついていた空気が一気に熱を含んだ。


「アホは黙ってろよ」

 注意する声をあげたのはいつでも機嫌が悪い蹴上だった。そんな蹴上にわざとらしく微笑みかける親父さん。

「そんなアホに上納金で負けとる雑魚が何言うてんの…?」

 眉毛を八の字にし、あざとく首を傾げる姿は、彼の娘さんに瓜二つだった。


 うちの組織は大きく分けて二つの派閥がある。

 一つは澁澤派、もう一つは佐鳥派だ。

 その二つの派閥は、跡継ぎを佐鳥の子供にするか澁澤の子供にするかでいつも揉め、顔を合わせれば毎回殴り合いをしていた。

 澁澤派の蹴上は佐鳥派である彼を酷く嫌っており、いつかは必ず佐鳥派を潰そうと狙っている。


「澁澤の坊っちゃん!なんやぼーっとして!そろそろ帰ったらどうや?三年生やろ?勉強せなあかんのとちゃうか?」

 彼の思考はいつまでも理解できない。

 集会の目的は俺の今後についての話し合いなのに、その俺を帰らせようとしているのだから。


「俺は」

 俺がそれを指摘しようとした時、正面の扉が開いた。


「わしも呼べや、女差別か?遅れとるな~相変わらず!」

 現れたのは……


「…佐鳥」

 佐鳥組の跡継ぎ候補、佐鳥の娘だった。


「やれ早よ帰れだのアホだの迷惑な男しかおらんな、ここには」

 制服のままで部屋のど真ん中に胡座をかいて座る佐鳥。

「……」

「どこまで進んだ?」

「は?」

「やから!話し合いはどこまで進んだって聞いてんねんけど?」

「お前には関係ないだろ」

「あるよ、やってうち娘やもん」


 こいつが現れると、いつもこいつのペースに呑まれる。


「新しい血が欲しいんや~とか、有能な奴~とか言いたいんやろうけどさ!なら澁澤の息子と同い年の若い女はどうや、例えばうちみたいな」

 半笑いで自分を指差す佐鳥。怒りで立ち上がる蹴上。

 佐鳥はその姿を見て鼻で笑った。


「怒った顔も間抜けやな~蹴上」

「身体使って見逃してもらってるクズが何を」

「確かにうちは身体で全部許して貰ってるよ?日本人はロリコンばーっかりやからな!」

「開き直」

「あんたらも身体使えばいいのに!まあそのルックスじゃあ無理か~」

「お前いい加減に」

「よく聞けよここんとこ上納金のトップ突っ走ってんのは佐鳥組やんか?やからいつもの通りに行けば佐鳥組が組継ぐのが妥当やない?」


 呼吸する暇も隙も与えず捲し立てる佐鳥。これがこいつらの得意技だ。

 顔をひきつらせ、佐鳥を睨む蹴上。



「…親の七光りが何を偉そうに……」

 佐鳥の背後で、蹴上ではない、もう一組の澁澤派がそう言った途端、佐鳥が顔を上げ、そいつの座っているソファーへ何かを突き立てた。

「……!!」

「人に紛れんかったら悪口もろくに言えん小心者が何偉そうに言うてんの?」

 眉を八の字にし、あざとく首を傾げる佐鳥。

 彼女が突き立てたものは、佐鳥の母親が、彼女に遺したドスだった。

「よいしょっ…と!」

 彼女はそれを抜き、鞘に納めてからスカートの腰部分に押し込んだ。


「あ、ソファーに穴空いちゃった~さいあく……おとうさんみて」

 綿が露出している場所を指で撫で、自分のお父さんに顔を向けてから首を傾げ、唇を尖らせる佐鳥。

「大丈夫やそんくらい!お前は可愛いから許される!」

「やんな!可愛くてよかった!」

 相変わらず距離感がバグってる親子だ。

 仲が良いことはいいんだけど、たまに不安に

「あ、環居たんや!久しぶり~!」

 あ、えっと、彼女は俺の名前を呼「丁度いいわ、環!これ弁償しといて!」

 えっ?

「え、いやちょっ、待」

「ありがと~優しすぎる…じゃあうちこれからカラオケやから!みんなばいばーい!」

「待て、まだ話終わっ」

「じゃあまた明日!学校で!な!」

「あ、いや、待

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