舞浜 夕花

「美心ちゃん!」

 今にも空に向かって飛び出そうとしている美心ちゃんへ、わたしは手を伸ばす。でもその手は届かずに、彼女の体は徐々に傾いていって。

 何かが、美心ちゃんの足元に飛んできた。

 それは、湯だった様な、トカゲだった。

 その存在に、美心ちゃんも気づく。

「え?」

 そして。

「きゃぁぁぁぁああああっ!」

 美心ちゃんが、この世で一番、それこそ他の全てを投げ出してしまえるぐらい苦手なトカゲを見て、彼女は飛び上がるようにして、フェンスへとへばりついた。

「取って取って夕花ちゃん取って取って取ってトカゲ取って嫌ぁぁぁあああっ!」

 そんな美心ちゃんを見て、重谷先輩と信永先輩はぽかんとした表情を浮かべている。わたしは苦笑いをしながら、フェンスを引き千切りそうな勢いで掴む美心ちゃんの元へと顔を向けた。あの様子なら、腰が抜けて飛び降りることなんて出来ないだろう。

 わたしはもう後悔しないために、美心ちゃんを救うため、走り出す。その後ろから、先輩二人の足音が聞こえてきた。

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