スクール・ランチ・アンサンブル
メグリくくる
重谷 幸伸(おもたに よしのぶ)
チャイムが鳴って、教室内が騒がしくなる。教師が次回の授業の内容をなおざりに説明し、それを聞き流しながら日直の号令に従い、俺たちは起立と礼をして、昼休みを迎えた。教室からは惣菜パンを求めて売店に向かって飛び出していく奴らや、席を移動させて一緒に昼食を取ろうとしている奴らの喧騒で、学校中が満たされていく。
そんな中、俺は窓際の一番前の席で、一人弁当箱を机の上に置いた。
別にいじめられているわけでも、仲のいい友達と喧嘩しているというわけでもない。ただ、ただ何となく、皆去年のあの出来事以来、俺に声がかけづらくなっているのだろう。だから俺もそれを察したように、自分から声をかけに行こうとしていない。
弁当箱は二段になっていて、上がおかずで、下が米の構成となっている。今日の上段の中身は卵焼きに唐揚げ、ソーセージにクリームコロッケ、エビグラタンにプチトマト、ほうれん草のバター炒め、そしてさくらんぼが入っていた。ほとんど冷凍食品だが、俺は親が作ってくれるこういう弁当が嫌いじゃなかった。下段の方は既に海苔が巻かれている大きいおにぎりがギチギチに詰められていて、手じゃなく箸でテコの原理を使って弁当箱から分離させなければならなかった。いつも三つとも味は違っていて、鮭におかか、昆布と毎回どれが出るのかわからない。今日俺が最初にかじった中身は、梅干しだった。米に梅の味が染み付いていて、冷えていても美味い。
そんなことを思いつつおにぎりを口に再度運んで、俺は何気なく窓の方へと視線を送る。よく晴れた青空が広がっていた。
快晴の下、耳に聞こえる他の生徒たちの声が、どこか遠くに聞こえる。同じ教室にいるのに、まるで何万光年も離れた場所から、俺はその騒がしさを聞いているように錯覚した。窓枠で区切られた青空はあまりにも青すぎて、俺は思わず眉をひそめる。きっとこの教室には、俺以外の全員が集まっているのだろう。
そう考えつつ、おにぎりをもう一口齧ろうとして、俺の手が止まる。いや、目がある一点にとまった。
屋上だ。
屋上に、誰かいる。
それも、フェンスから身を乗り出そうとしていた。
……危ない!
と、そう思った時には、既に体が動いていた。教室の扉を勢いよく開けて、俺は今見た屋上の方へ向かって走っていく。
そんな俺を、教室にいた他の生徒たちが、唖然とした顔で見送っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます