第12話
「何で? 頼む、通してくれよっ!」
「だから、もう出入り禁止なんだって」
自転車から転げ落ち、その勢いのまま火葬場に入ろうとした俺は、警備員に捕まった。
「どうして出入り禁止なんだよ!」
「もう最後の火葬が始まるんだよ。危ないから、って、だから、危ないんだってっ!」
「危なくてもいい! 通して、通してくれよっ!」
「君がよくても、何かあったらボクの責任になっちゃうんだよ。だから、ね? 諦めてよ」
「諦められるかっ!」
一瞬の隙をつき、俺は警備員を潜り抜けるように火葬場の敷地に足を踏み入れた。
が、
「だから、ダメなんだって」
次の瞬間には、警備員に首根っこをつかまれ、引き戻される。
外に放り出されるように転がり、泥だらけの顔を上げると、
「あ、始まったみたいだね」
何が? いや、答えはわかっている。でも、俺が受け入れたくないだけだ。
あの黒く立ち上る煙が火葬によるものだなんて、絶対に受け入れられない。
「……ぁ」
現実を否定しようとして俺の口から出たのは、たったそれだけだった。
肺の中の空気を、うまく使えない。風切り音のような音しか、俺の口から出てこない。
何故だかわからないが、両目から透明な溶岩が流れ出した。俺の頬を焼き焦がすような、熱と痛みが走る。
「な、んで……」
ようやく発せれたのは、そんな嗚咽だった。止まらない涙を必死に抑えようと、俺は両手で両目を塞ぐ。そうしないと涙に水分が全て使われ、眼球が干からびてしまいそうだ。
何で、こうなってしまったのだろう。
答えはもう出ている。俺のせいだ。俺があいつをちゃんと見なかったから。あいつのことを、ちゃんと理解してやれなかったから。
体の震えが、止まらない。溢れる涙は熱いのに、脈打つ血潮は赤いのに。流れる汗は冷たくて、俺の心は灰になる。
もう俺には、立ち上がる気力すら残っていない。それでも俺は、必死に顔を上げた。月に照らされ、星に向かって登っていく黒煙を見ながら、俺は最後の力を振り絞って、あいつの名前を叫んだ。
「弓子ぉぉぉおおおぉぉぉおおおっ!」
「なあに? ぎーちゃん」
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