第11話

 スマホで火葬場の位置を検索しながら、俺は引きずるように足を動かしていた。

 何故自転車で来なかったのかと自分を責めるが、そもそも家に自転車はないことに気がつく。森下が補助輪なしだと自転車に乗れないからだ。一緒に通学したいというあいつの要望を飲んで、中学に上がっても徒歩通学にしたのだ。

「儀一っ!」

 息も絶え絶えに振り返ると、そこには自転車に乗った昭がいた。

「弓子さん、見つかった?」

「探して、くれてるのか……」

「当たり前だろう!」

 何故だろう。罵声を浴びせかけられているのに、頬が緩む。

「新藤さんと若桑さんも、原くんも一緒に探してくれている。探し終わった場所は、」

「昭、頼む」

 手分けして探してくれたのだろう。昭が取り出した地図には、既に捜索し終わった場所が赤字で斜線が入っていた。でも、俺はそれを遮り、昭の自転車をつかんだ。

「居場所に、心あたりがあるのかい?」

 それだけで全てが通じる昭に、俺は荒い息を吐きながら頷いた。

「自転車、」

「使ってくれ」

「……へへ、さんきゅ」

 昭の自転車に、俺はへばりつくようにして乗った。

「自転車は、」

「いいから、弓子さんと一緒にすぐに帰って来いっ!」

 昭に背中を押され、俺は自転車をこぎ始めた。火葬場の位置は、もう覚えている。

 ひとこぎする度焦りが募り、ひとこぎする度汗が滝のように流れ落ちる。ペダルを足で踏み込む度、間に合ってくれと心の中で叫んだ。

 あいつが授業の途中で抜けだしたのなら、もうとっくに火葬場に着いているはずだ。手続きに時間を取られたと考えても、間に合うかはかなりギリギリのタイミングになるはず。

 坂を登り、道を曲がる度、俺の脳裏にあいつとの思い出が甦ってくる。

 幼稚園に入園する前、初めてあいつと顔合わせをしたな。俺は無駄に偉そうで、あいつは俺を不安そうに見つめ、半べそをかいてた。

 幼稚園の時、二家族一緒に家族旅行で海に行ったな。蟹に指を挟まれ泣いていた俺を、お前はずっとそばにいて慰めてくれた。

 小学校の時、通学路に大きな野良犬がいたよな。怯えるお前を、俺が手を引いて一緒に通学した。思えば、これが今も続いているのかもしれない。

 中学校ではーー

 まだ、途中じゃねぇかよ。

 まだ三年間、終わってねぇだろうが!

 まだこれから一緒に、思いで作れるじゃねぇかよっ!

「勝手に死ぬなんて、許さねぇぞ……」

 自分でも、理不尽なことを言っているのはわかる。

「俺の前からいなくなるなんて、ありえねぇぞ……」

 自分でも、自分勝手だって、わかってる。

 でも、

「お前が二度も俺の前からいなくなるなんて、そんなの耐えられねぇ、一緒にこれから、生きていてぇんだよぉ!」

 喉を枯らし、叫びながら、俺は最後の坂を登り切る。

 日本語の体をなしていない言葉を叫びながら、俺は坂を全速力で駆け下り始めた。

 坂の下に、火葬場が見えた。

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