第3話
少子化が進む中、日本は明確な解決策を提示出来ないでいた。子供の数が減っていく中、将来に希望を持てない若年層の自殺率も上昇。更に自殺した我が子を追うように、その両親までもが自殺するケースが増加した。子供だけでなく大人までもがいなくなるこの事態に、政府は国を上げて対応することになった。
その結果出来たのが、復帰転生法。通称、ゾンビ法案。これは次の二つの条件を満たしている死体について、蘇生することを許可するという法律だ。
条件その一:死体に脳みそが残っていること
条件その二:自殺した死体でないこと
これらの条件に合致し、蘇生され、復帰転生した者は、復帰者と呼ばれている。
「そうだな。お前は昔っから変わってねぇよ。伸長もやることも」
「しんちょーのことは、しょーがないじゃん。わたしの死体を元に蘇生してるんだからさ」
そう言った森下の体は、彼女が言った通り死んだ『あの時』、小学校四年生のままだった。
蘇生する方法は、何やら難しい理論で、死体の中の電子を使っているらしい。でもその理論について、俺は完全に理解するつもりはないし、必要もない。俺にとって重要なのは、幼馴染の森下が蘇ったという、その一点のみ。死体から蘇ったので復帰者はゾンビとも言われているが、身体的な成長が出来ないこと以外、普通の人間と変わらない。森下は轢かれる前の記憶もちゃんと残っているし、自分で考え、自分で行動することが出来る。ゾンビというより、フランケンシュタインの方が、イメージとしては近いのかもしれない。
いや、待てよ。フランケンシュタインも、結局人間の死体から作られてるんだよな? なら、やっぱりゾンビってことでいいのか?
「ぎーちゃん?」
急に黙り込んだ俺を心配するように、森下が顔を覗きこんでくる。彼女の顔が近づき、俺は狼狽した。
「あ、悪ぃ。ちょっとぼーっとしてた」
「もう、ぎーちゃんったら。しっかりしてよね」
森下が不服を表すために、唇を尖らせる。見事なアヒル口だ。
「っていうか森下。その『ぎーちゃん』ってのやめろよ。もう子供じゃねぇんだから」
「えー。いーじゃーん別にー」
「いい加減、恥ずかしいんだよ。昔の名前で呼ばれるのは」
俺はバツが悪そうに、頭をかいた。だが、森下は一向に引き下がらない。
「だいじょーぶだよー。ぎーちゃんはぎーちゃんだもん。ぎーちゃんもわたしのこと、昔みたいに弓子って呼んでよー」
「やだよ!」
「どーして?」
「ど、どうしてって……」
「あ、ぎーちゃんひょっとして、恥ずかしがってるぅー?」
「バ、バッカ。そんなんじゃねーよっ!」
そんな言い合いをしていると、ある車が通り過ぎた。選挙カーみたいな風体だが、その車が行っているのは選挙活動ではない。
「ゾンビ法案、断固反対!」
「この法律は、神への度し難い冒涜だ!」
「生命の神秘を、穢している!」
「死んだ人間を、安らかに逝かせてやれ!」
復帰転生法に反対する連中だ。通り過ぎる車を見て、森下が暗い顔をする。
「あんな連中の言うことなんて、気にする必要ねぇよ」
「……うん」
先ほどまでとは打って変わり、沈んだ表情のままとぼとぼと歩く森下を見て、俺は通り過ぎた車の進行方向を睨みつけた。
全く、何て奴らだ! こんな優しい法律を、残された遺族、友達を、幼馴染を救ってくれる法律に反対するなんてっ!
でも、あいつらだって自分の大切な人が死んだ時、気づくはずだ。この法律が、いかに素晴らしいものなのかを。
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