ミモザ

文重

ミモザ

 高2の夏、交通事故に遭いサッカー推薦で進学する夢は絶たれた。勉強する気力も失せ、学校も休みがちに。このままでは卒業も危ういと、親父の発案で春休みの間、気分転換に長野の実家で母親と過ごすことになった。


 空き家になっていた古い木造の平屋には、庭に1本の大きなミモザの木があった。ふだんは花なんかに全く興味のない俺だけど、道路の上にまでこぼれ咲く黄色い花にはさすがに目を引かれる。


 1人庭で歩行訓練をしていると、ミモザの下に彼女が立っていた。

 「きれいね」

 白いコート姿の彼女はそう言って、垣根越しにかすかに微笑んだ。姉貴よりは年上だろうか。ミモザの前を通る名も知らぬ彼女と、二言三言言葉を交わすのが日課になった。彼女とのデートを思い描くと、俄然リハビリにも熱が入るというものだ。


 誘えないまま別れを告げた日、彼女がいた場所に学生証が落ちていた。名前よりも先に目に飛び込んできたのは、「理学療法学科」の6文字だった。

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ミモザ 文重 @fumie0107

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