二十六話 コワレルナカマ


 Bランクのやつらはすぐに首を掻き切られて、Cランクの奴らがやられるのも時間の問題。

 そうなれば、次はあたいらのパーティーがやられる。


 (まあ、その前にあたいが殺されちゃ意味ねーが。まさかあの連続貴族誘拐事件に巻き込まれるとはな。天使のクソッタレが)


 そういえばこの依頼を『運良く』拾ってきたのもトムだった。

 

「すいません。リーダーだけは生かしておいてもいいですか?」


 トムの奴が隣のガタイがいいリーダー格の男に話しかける。


 「だめだな…目撃者は生かしては帰さんと伝えているはずだ」

 

 「生かしては帰さないということは死んでいれば問題ないということですよね」


 リーダー格が考え込んでいる。

 その隙に大剣スキル【チャージアタック】を溜めるモーションに入る。

 

 「いいだろう…お前ともそういう契約だ。死体程度なら持ち帰ることを許可する。ただしさらったことを知られないために他の死体は装備を剥いでミンチにしておけ。それくらいはしてもらうぞ」


 血の気も凍る会話内容を聞いて血の毛が引いていく感覚とともに奴らに心当たりがある。 


 行きつけの酒場『ハイランの酒樽』でよく聞く噂。

 大昔から存在する最強最悪の闇ギルド『クロウハート』。


 なんでも、英雄の死の裏側にはこのギルドが関わっている。

 団員は全員アンデッドと悪魔で構成されている。

 魔王がギルドマスターを努めているなど、酒のつまみとして大いに活躍しているただの風の噂である。

 誰が流行らせたのかもわからないし、いつからそんな噂があるのかすら定かではない。 

 不合法なギルドはいくらでもある。


 闇の魔術師が人体錬成を行なっている所、この人の大陸に悪魔の大陸が行き来できるようにするワープホールを作ろうとしてるギルド。

 しかし、ただの野盗にしてはありえないくらいの用意周到さにかの闇ギルド、『クロウハート』を思い浮かべてしまうのは仕方ないと言える。


 「ありがとうございます。ということでリーダー。優しく殺して差し上げるのでそこで目を瞑っていただけませんか?」


 トムとリーダー格の男の交渉が終わり、トムはダガー捨てて細い瓶のようなものを腕に突き立てた。


 トムから溢れ出るねばっこい欲望と、地獄のような現状も相まってまるでモンスターと相見えているようだ。いや、ようだと言ったのは訂正しよう。

 トムはもう人間を辞めていた。


 鉄の針金を何千本も束ねたように筋繊維の一本一本が盛り上がり、太さも倍以上になっている。

 血管が広がって超高速で血液を送り出して血管が心臓の動きに合わせてためた水を一気に水路に流したかのように脈打っている。

 顔も皮を剥いでむき身になっている動物のようになっている。

 目はどこを見ているのかあっちへこっちへと忙しなく動き回っている。

 息は獣のように荒ぶり、熱い吐息を辺りに吐き散らしている。


 「アジュ、リィ…アジュゥゥゥ」


 吐息と共に溢れでる言葉は最早言葉と言えるものではなく、かつては同じ釜の飯を食った『盗賊』トムはどこか遠くに旅立って行ってしまった。


 アシュリーは仲間を失った悔しさから奥歯を強く噛み締め、怒りをパワーに変換し、

 「【チャージアタック】!」

 

 最大限にチャージされた剣術スキルを人を捨てた元仲間に繰り出す。

 目の前の魔物は未だ心ここに在らずといった様子で中空を眺めている。


 もうこれ以上トムの魂を化け物に穢させないために一撃で苦しませずに逝かせるために『身体強化(小)』を使って大剣を振るう。

 

 大剣の巻き起こす重撃は地面に小さなクレーターを作るほどの威力で、アシュリーの『身体強化(小)』も合わさったことでその一撃は冒険者ランクのBにも肉薄する威力になっていた。


 その渾身の一撃をトムはガードもせずに甘受した。

 高らかな金属音と何百もの火花が散って、首を狙った一撃は効果を最大限発揮した。

 そして、土煙が舞い降りて化け物の姿が見えてきた。

 

 健全

 

 何の痛痒も感じてない様子でトムだった化け物は若干切れ目が入っているかいないかの傷がついた首筋を撫でなから、探していた獲物をやっと見つけたと言わんばかりの不快感を引き起こさせる笑みを剥き身の顔に貼り付けて人語とかけ離れた言葉をぶつぶつと呟いている。


 突如、化け物の姿が視界から掻き消えた。


 その瞬間強い衝撃がして体がくの字に曲がる。

 体のどこかにある骨が軋む音を体全体で感じながら、また強い衝撃がして何かに激突する。

 どこかの骨がポキンと折れた。


 血で滲んだ視界で辺りを眺める。

 拳を振り抜いた姿で固まった化け物がいて、視界に入ってくる木の葉から自分は木に叩き付けられたことが薄れつつある意識の中で理解できた。


 化け物が何か前屈みになって血を吐いていた。

 もしかしたらあの【チャージアタック】が効いていたのかもしれないと自虐する。


 化け物がゆっくりと近づいてアシュリーの両肩を掴み、大口を開ける。


 他の野盗が倒れている冒険者にとどめを刺している順番も『風の剣』まで回ってきている。


 (終わりか…あの世に…行ったら他の奴らに、トムを責めねえように…言わねえとな…)


 「さっさと死ねぇ、この討伐対象がっ!」


 知らない声がしてアシュリーは、少しだけ目を開ける。

 アシュリーの最後に見た景色に、1匹のハンターウルフエリートが映り込んでいた。

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最弱魔王の鬼畜世界放浪記 @karakorokara

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