二十五話 謎の野盗

 歩き続けてはや太陽が半分を過ぎた。


 翼で飛んで行きたいが、なぜかはわからないが嫌な予感がする。

 うなじのあたりがピリピリする様な変な感じがする。

 

 直感に従って地上ルートで行くことにした。

 

 草木は生えてはいるものの平坦で水袋の減りは予定より少ない。

 このペースなら今日中に山の麓まで来れそうだ。


 

 今日はここで一泊するか。


 太陽は沈み、今にも茂みから獣が出て来そうな雰囲気がバエルを不安にする。


 尻尾だけ【龍人化】を解除して気に巻きつけてその日はぐっすり寝た。


 

 朝日が昇ると同時に出発する。

 昨日で山の麓付近に来た。

 

 岩の隙間に生物の気配がしたから魔法で拘束する。

 20センチくらいの蜥蜴とかげだった。

 (じゅるり)

 こいつを朝食にしよう。


 朝から新鮮な蜥蜴肉を食べられるとは運がいい。

 

 木が生い茂った獣道を突き進む。

 

 「ん?」

 

 どこかから獣のような声が聞こえた…ような気がする。

 もしかしたら魔物と魔物の殺し合いを拝めるかもしれん。

 

 よし!漁夫の利を狙って隠れていよう。

 最悪片方が余裕がある状態だったならば負けた方の残りものをくすねればいい。

 

 食用の肉はもちろん、皮や骨なども需要と供給が釣り合わなくて悩んでいたところだ。


 そうと決まれば獣の声がした方に急がねば!

 (むふふふ、今日は焼肉かな?また、うまい飯を食えるぞ〜)


 

********************

Dランク冒険者のアシュリーは一瞬の隙も作らないように眼前にいる6人の盗賊を睨みつける。


 (してやられた…)

 

 アシュリーは己の無力を悔いたが、これは予測の範疇を超えた出来事であったため、仕方ないとも言える。


 時は少し前に遡る。


 アシュリーはとある貴族の護衛任務についていた。

 最近、国を支える有力貴族が誘拐される事件が相次いでいる。

 そのため貴族が移動のたびに護衛として冒険者を雇うので冒険者にとっては楽して稼げるとして依頼の取り合いになっていた。


 今回この依頼を引き受けられたのはまさしく普段の苦労に対する天使様の施し。

 とはいえ、今回の依頼に参加した冒険者パーティーは5組、自分のパーティーを除く全てがランクCとB。

 アシュリーをリーダーとした冒険者パーティー『風の剣』は1番ランクが下だったので護衛チームの中で雑用係として使われている。

 時折出てくるモンスターの血がついた武器や防具を布で拭くことや他のパーティーのサポートをしなければならない。


(飯を作ったり、あたいらはメイドかっての。

 天使様も少しは配慮して欲しいつーの)


 そんな罰当たりなことを思い貴族の馬車に並行する。

 

 夜は交代でモンスターや野盗が来ないかの見張りをしなければならない。

 これもうちのパーティーだけ何故か見張り時間が長かったのは言うまでもない、クソッタレが…

 

 朝は珍しくパーティーメンバーの『盗賊』を修めたトムが朝食を作ることになった。


 正直、トムの料理は美味くない。 

 はっきり言ってマズい。

 それなのに今日の朝は自分が作ると言って聞かなかった。

 

 他の仲間と食べるふりをしてこっそり捨てようと結託していたのだがトムが持ってきた料理は前に作ったゲロマズ料理とは一味違った。


 出汁の香りが漂う普通のシチューが出されてきた。

 『風の剣』の、メンバー一同いちどう、目を見開いて驚いた。

 

 他のパーティーのクソ野郎どもは不味そうだとか、貧相だとかほざきやがる。

 トムの努力を笑いやがって。と、側から見たらどの口が言うかとツッコミたくなることが起きてもアシュリー本人は気づくことはない。




 他の奴らがうまそうに飯を食ってるが、あたいは用を足しに行きたくなった。


 行ってくるぜ、と仲間の聖者にいって草むらの中に入って行った。


 

 「ふー、気持ちよかったー」


 のんびりと集合場所に向かう。帰ったら自分のはともかく、他のやつの皿も洗わなくてはいけないため、サボろうと言う甘い魂胆が見え隠れするスピードでゆっくりと歩く。


 (やけに静かだな)


 少しの疑問を感じたから少し歩くスピードを上げた。


 そこには予想だにしない光景がひろがっていた


 「な、何が……」

 

 みんな痙攣しながら倒れていた。

 自分のパーティーだけじゃない。

 あたいらより強いCランク。果てにはBランクの奴らまで白目を剥いて痙攣している。


 「襲撃?」


 言葉にした瞬間に緊張感が走る。

 貴族が乗った馬車の前に陣取り、背中の大剣を抜き放って前に構える。


 ほんの数十秒の出来事なのにまるで全力で訓練した後のように汗が全身から吹き出して脂汗が額に滲む。

 

 木の影から何人もの人影がゾロゾロと出てくる。


 (1、2、3……4人もいやがる)


 ジリジリと距離を詰めてくる野盗から目を離さず、貴族と護衛の乗った馬車の扉を乱暴に叩く。


 「どうした?」


 護衛の緊張感のなさに怒鳴りそうになるのを抑えて襲撃だ、と伝える。


 「それを払うのはお前らの仕事だ」

 

 「全員気絶している!」


 アシュリーの反撃に馬車の中がざわついている。これは増援は期待できそうにない。

 護衛の騎士も場数のないようなぺーぺー野郎だった。

 そのくせ家柄だけは良いのか、自分よりも強い冒険者を下に見ていた。

 今回みたいなトラブルの対処法も知らないだろうし、どうせ死にたくないから絶対に出て来ないだろう。


 「馬車を出せぇ!」

 

 なんちゃって騎士の声がして、御者が魂を取り戻したように大きく跳ねて馬に鞭を打つ。

 しかし飛んできた黒いダガーの方が鞭を振り下ろすよりも早く御者の頭を貫いた。


 黒鉄に蛇の刺繍がされたダガー。

 これを使っていた人物は1人しかいない。

 

 「どういうつもりだ……トム!」


 木の上から聞き慣れた声がしていつものフードを被ったトムが飛び降りる。

 フードを深く被った男ートムは自分のリーダーであるはずのアシュリーの質問を無視し、

 「やって下さい」

 

 トムがそう静かに言い放つやいなや、2人の野盗が痙攣しているBランクの奴らの首を短刀で掻き切る。


 「何してんだてめぇ!」

 

 激昂に喉を震わせ、足に力を込めて距離を詰める。容赦は一切ない。

 大上段からの大剣の振り下ろしをトムが二振りのダガーで斬撃を逸らす。

 その間に曲刀をもった1人の野盗が切り掛かってくる。


 何とか肩にかけての一撃を避けるが、完全には避けきれなかったようで牛型野獣種の皮をなめして作られた肩当てが薄く切られる。


 こうしている間にも倒れている奴らがとどめを刺されている。


 (こいつら!冒険者ランクの高いやつから始末していやがる!ただの野盗じゃねえ……)

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