二十四話 新たな旅立ち

 蔓で作ったカゴに武器や紐などの大切な物を入れて愛しの我が家から離れる。


 わざわざ安全であったこの洞穴を捨ててまで遠くに行くかと言うと理由は二つある。


 ハンターウルフエリートを倒したことでレベルが一気に上がった。

 瀕死の重症を負っていたとはいえ、レベル的にいえばレインボースケイルよりずっと強い。


 だから最低限の自衛は出来ると踏んだのが理由の一つ。


 しかし一つ目の理由は単なる後付けでしかない。

 

 本当の目的はハンターウルフエリートを瀕死にして、部下のハンターウルフを皆殺しにした未知の敵から逃げるため。


 いくら持久力に秀でたハンターウルフエリートが瀕死の状態で移動するのには限りがある。


 しかも体に刺さっていたものに見覚えがある。

 それは自分が殺したはずの3人の子ゴブリンの1人であったカーラの持っていた魔法の杖であった。


 まさか生き返ったのか?

 「あり得ない。1人ははらわたを裂かれ、1人は下半身を失い、またある1人は肩から切りつけた。しかも呼吸も心臓も完全に止まっていたはず…元いた世界では世界に一体しかいない不死鳥の生き血を飲むことで一定時間【不死】を得られるという噂があったが……」


 自分で考えていても馬鹿らしく思えてくる。

 そんなことがあるはずがない。

 仮に死を遠ざけるスキルを持っていたらあんな小さな集落に留まっている理由はない。

 それに我を殺すことも容易であっただろう。

 

 つまり死体を漁りに来た強い、尚且なおかつ杖を武器にする程度の知能を持った魔物がハンターウルフエリート達を襲ったという説が妥当か…


 まあ、何はともあれハンターウルフエリートの血を辿ってここまでくる可能性もある。


 ソウルイーター以外にも超越した存在がいることに胃を痛めつつ、お世話になった我が家に別れを告げる。


 「ありがとう、世話になった。さて、どうしたものか」


 最後に切り取った狼の胃を水袋に加工したものに小川の水を汲む。


 

 これから更に北に北上して行く。

 目的地は人間が居ると思われる山の向こうの土地。


 あれは2日前コミコミの実を探しに行く途中のことだった。


 何気なく遠くの山を見上げていた時、何か山の中腹辺りががモヤがかかったように曇っている箇所があった。

 最初は山火事かと思っていたが、思い返してみれば、山火事なんかの火は黒色だった。


 それに時間が経っても煙が燃え広がることはない。

 そこで閃いた。

 人間の作った製鉄所がある大都市の空には煙が空高くまで上がっていた。


 だから我は気づいたのだ山の向こうのふもとには人間がいて文明を築いていると。


 レベルが高いから力で支配することはまだ厳しいかもしれない。


 しかし!我には元の世界でつちかって来た魔法の知恵がある。

 高性能な我の魔力回路操作法を餌にちらつかせ、魔法どもを心酔させ、いずれは世界を支配してやるのだ!

 

 「フフフ、フハハ。フーッハッハッハ!」


 

 そして今に至る。

 荷物をまとめ、目指すは山の向こうにある人の街。


 バエルは意気揚々と明るい未来に向かって歩き始めた。

 


 IFルート レインボースケイルを倒して北上しようと試み空から探すことになった時の運命


 

 空からの方が地面を歩くよりも体力を使わないし、水がある場所か、別の洞窟をさがそう。

 

 そう自分に呟き、手に幾つかのコミコミの実を持って背中に力を入れる。


 光の粒子が集まり徐々に翼の形を成してゆく。

 

 光る翼を広げて飛び立つ。

 やはり飛行は気持ちがいい。

 顔を空気の拳に殴られながらも速度を落とさず舞い上がる。

 

 魔王に進化してからも翼はあったが、龍では無くなっていたためか、動かなくなっていた。


 魔法でも飛行の魔法はあるが、体に空気の層ができて、風が顔に当たる爽快感がなく、つまらなかったところだ。

 魔王じゃなくなっていいこともあったものだな。


 

 

 煌めく残光を残して天空を掛ける姿は流星のようであった。


 雲と並ぶ高度まで到達して、下界を見渡すとまるで自分が世界の全てを握っているような気がした。


 そう思えるほどに目下に広がる広大な世界は美しかったのだ。

 自分の上に影があることも気づかないくらい皮肉にも世界は美しかったのだ。



 


 ワイバーンは自分の赤子に与えるご馳走が手に入って、いつもより早く巣へと飛び去った。


         (Fin)

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