二十三話 出立準備


バエルは息を切らしながら事切れた狼のボスを寝床へと運び込む。


 気休め程度の回復魔法で己を癒してすぐに解体に取り掛かる。

 

 休んでる暇などない。

 よだれを垂らしながら焚き火に枯れ枝をぶち込む。

 

 「はあっ、はあっ。遂に…遂にこの時が来た!何度夢見たことだろう。長かった。本当に長かった……」


 いつもよりも4段階位テンションを上げた声がバエルがどれほどこの時を待ち侘びたかを物語る。

 

 “新鮮な肉を食う”


 そのために耐えた。

 どれだけ酷い目に遭おうとも。

 コミコミの実しか食べれないせいで別の味を知りたいと頭のネジが外れて木の皮を食べたこともあった。

 しかし今までの惨劇を許せるくらい、肉を食べられることはバエルの中で大きなものだったのだ。


 黒曜石の内部で狼をどんどん捌いていく。


 血抜きをしても真っ赤な肉がバエルのよだれを垂らすことを辞めさせない。


 平たく削れた岩を火にかけて軽く温める。

 そして遂にハンターウルフエリートのもも肉を岩のプレートの上に乗せた。

 

 全然生でも行けるのだが、もしもこの世界ヘルの食中毒にかかったら抵抗もできずに死にそうだから渋々火にかけたというわけだ。


 しかし、そんな愚痴も食欲をそそる香りによって一瞬にして霧散してしまった。


 何度でも擦り続けるが、耐えた。

 肉を食うために生きてきたと言っても過言では無い。

 俺…じゃなくて我はコミコミの実以外の味が知りたいと気の皮を齧ったことも(以下略)



 今までのことを振り返っている間に肉がこんがりと焼けた。

 

 ドラゴンブレスを吹かない様に熱々の骨付き肉をふーふーして齧り付いた。


 肉を噛んだときに新たな世界が生まれた。

 自分でも何言ってるか分からないが、とにかく美味い…もうコミコミの実なんかと比較にならんくらい美味いのだ!


 噛めば噛むほど引き締まった筋肉から旨みを含んだ肉汁が噛めば噛むほど溢れてきて、まさに夢見心地であった。


 一口一口噛み締める様に味わった。

 

 ピロリン『味覚強化Lv1を獲得しました』


 気づけば狼肉は無くなっており、骨と皮だけしか残されていなかった。


 サバイバル12日目


 まだ口に残る微かな肉の味を堪能しながら、今日作るべき物をリストアップする。


 1.骨を削って壊れた石の槍を修理&強化する。

 2.毛皮を使って【龍人化】したとき用の装備を作る。

 

 今日は主にこれらを終わらせられれば上出来か…

 木の枝をかき集めて狼の牙でちょっとした投擲槍を作る。

 

 昔、ある森花人ドライアードから教わった。

 木を加工してとっかかりを作り、そこに槍を乗せて高速で発射する武器を作る。


 枝の伐採は慣れた物で1時間もかからずして20本余りの枝を切り落とした。


 しかし問題は牙の方にあった。


 「おのれ、クソッタレな狼めが…死してなお我の邪魔をするかぁ〜!」


 我を悩ませた問題。

 それは、牙が抜けないのだ。

 歯茎の肉がまだ歯の根元で歯と骨をつなぎ合わせていて、それがなんと硬いことか。


 さすが攻撃力26000なだけはあるな。

 歯の横っ面を石で叩こうとも全然折れん。

 1時間叩き続けてまだ7本しか折れていない


 一旦やめて、装備の方に取り掛かろう。

 

 皮をなめす為に煙で燻す。

 そのあと皮を石で叩く作業が必要だ。

 

 しかしバエルは忘れていた…指を石でたたく痛みを…


 サバイバル16日目


 真っ赤に腫れた指をさすりつつ、皮を骨を加工した針で縫い付ける。

 

 作業を初めて3日間、自分にバフをかけまくって牙を抜いて。

 皮を舐めして、その間に作った骨の針だ。

 細かい作業のしすぎで指が歪んで見える…

 裁縫は幼い頃に母がよくやっていたから何とか出来た。


 

 そうしてできた服を着てみる。


 「【龍人化】」

 

 体がゴキゴキとなって書き変わる感覚は慣れそうに無いと愚痴りながら服を着てみる。


 狼の顔の皮をフードの様に被り、残りの毛皮をマントがわりにする。

 肋骨なんかは体に巻きつけてちょっとした外骨格に加工した。

 正直、骨の鎧が1番作るのが簡単だった。

 尻尾は腰に巻きつけてあれを見えない様にした。


 自分で言うのも何だかなかなかの仕上がりでは無いだろうか…

 蛮族にも見えなくも無いが、変態から蛮族に昇格するなら我慢できる。


 武器も2メートル越えのハンターウルフエリートの犬歯から抜いてより鋭くした短刀、残りの牙も短い投擲槍にした。


 これだけ装備が揃ったのだ。

 もう行ってもいいだらう。

 


 文明圏へと…

 

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