二十二話 全ては肉のために!
低い唸り声をあげてそいつは現れた。
恐ろしく鋭い爪を地面と擦らせて、半開きの口からは鋭い牙を覗かせて。
その口腔からは吐息と共に血生臭い息を吐き出して。
バエルは眼前の朱に染まったハンターウルフエリートを見て最初こそ終わりを確信していたが、あることに気づいた。
この赤いハンターウルフエリートは大怪我を負っている。
身体中に付着した血は獲物の返り血というより、体に刻まれた切り傷や、肉が抉り取られているところから流れ出る血が朱の衣を纏うように見せていた。
極め付けは骨盤あたりに突き刺さった杖、それによって後ろ足を引きずって見ているこっちまで痛くなってくる。
それがなぜかは分からない。
隊の司令塔である【指揮者】が前線で戦うことはまず滅多にない。
それにいつまで経っても部下が出てこない。
とすると、考えられることは一つ。
(何者かがこのハンターウルフの隊一つを丸々殺し尽くしたのか、それも撤退の隙を与える前に…)
見えない敵に戦慄しつつまずはこの手負いのハンターウルフエリートを倒さなければ始まらない!
(仲間がいたら速攻殺されていたが手負いかつ仲間がいない今ならどうにかできるかもしれん)
尻尾で巻き取っていた石槍を手に持ち、腰を低くして様子を探る。
戦う意志を感じ取ったのか、相手もまた唸り声を上げて身を低くした。
ピロリン「敵対した対象とのレベル差が一定値まで達しました。【強者殺し】が発動しました。全ステータスが20%、【全属性耐性】レベル1が付与されます。」
ピロリン「敵対した対象とのレベル差が一定値まで達しました。【ジャイアントキリング】が発動しました。全ステータスが50%、【会心率アップ】レベル2が付与されます。」
脳内アナウンスがスキルが発動したことを知らせる。
そのまましばらくの時間が流れた。
永遠にも思える長い時間にもついに終わりが訪れる。
両者一斉に動き出す!
先制攻撃をしたのは魔法を使うバエルであった。
「《
発動の遅い《
を狼に向かって放つ。
自分に向かってくる火球に避ける動作など微塵も見せずに一直線に駆けてくる。
「ガウっっ!」
ハンターウルフエリートが吠えたと同時に鋭い爪で火の玉を切り裂く。
火の玉は爪で四頭分されて魔力が安定しなくなり、本来の威力は失われてしまった。
しかし、内包された熱は少なからずハンターウルフエリートの身を焦がす。
(流石は群れのリーダーと言ったところか…剥き出しの肉が焼けようとも突き進んで来るとは)
ハンターウルフエリートの全身全霊の飛びつき。
これをバエルは横に転がる形で回避する。
【強者殺し】の様なバフのおかげで何とか疾風の如き速度で飛び込こみを見切ることができた。
ハンターウルフエリートが飛び込んだ際に放った噛みつきは後ろの木に綺麗な歯形を刻み込んだ。
しかし噛む力が強過ぎて牙が幹に深く刺さって若干のタイムラグが生じた。
そこをバエルは見逃さず一突き。
槍の切先は傷口を抉る様に回転しながらダメージを与える。
部下たちをまとめあげた狼のボスは痛みを感じさせない様な動きで反撃してくる。
ハンターウルフエリートの攻撃力26000。
振り回す爪は強化されたバエルの龍殻を最いとも容易く切り裂く。
ピロリン「【苦痛耐性】レベル1を習得しました」
龍殻を砕かれた痛みが和らぐ。
和らぐとは言っても本当に微量なので軽減されているとは言い難い。
その後もバエルと狼のボスとの死闘は続く。
終始流れを掴んだハンターウルフエリートだったが、バエルがヤケクソで放った一撃が杖が刺さった場所、まさに弁慶の泣きどころともいえる弱点を貫いたのであった。
そこから格段に機動力が落ちたところを魔法で追い討ち。
炎で焼かれ、氷で凍りつかされ、酸で焼かれ、最後は黒曜石のナイフで首を掻き切られてようやくハンターウルフエリートは力尽きたのであった。
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