二十一話 肉への欲望

サバイバル生活10日目


 水に漬け込んだイトマキ草を引き上げて、持ってきた石のまな板で皮を剥がれやすくする。


 昨日はあの盗賊のことがフラッシュバックして寝付けなかったから朝から眠すぎる。

 だから朝日の優しい暖かさに何度も眠りそうになったが、そのたびに石で指を叩きつけてしまって寝ることはなかった。


 我に粘り強さがあることが立証されたと同時に絶望的なまでの不器用さも同時に立証されたのであった。

 

 次は細い紐のようになったそれを地面にさして固定した枝に紐を結んで糸にしていくと鑑定結果で出ていた。

 しかしここで最大の問題が出てくる。それは、糸が細すぎて扱えないのだ。


 うん、途中からわかってはいた。わかってはいたのだが...と嘆くと思っていたか?

 皆忘れかけている種族皆忘れかけていると思うが、我の種族は魔王から龍に変化(もとい退化)した。

 つまり魔王では使えない、龍しか使えない特技が我には可能なのだ!


 って、皆って誰だよ。だいぶ疲れてるな、我……


 体に力を入れる。大きく息を吸ってー、せーの


 「【龍人化】!」


 体が発光し、視界が白に染まっていく。それに伴い体が変化していく。

 

 体の構造そのものが置き換わっていく感覚に痛みはなくても不快感や、眩暈がする。

 しばらくして視界を遮る光が光量を落としていき、体の不快感も消え去った。

 久しぶりの【龍人化】に懐かしさを覚えつつ、 体をまさぐる。

 体を覆う龍殻、胸の剣、がなくなり、尻尾も半分に縮んでいる。

 頭に小さな角をはやした、元の龍(詳しく言えば半龍人)から完全な人型へと変化した。

 早速作業に向かおうと歩き出す、途端。


 「ぐへっ!」


 バランスを崩して地面に唇を奪われる羽目になった。

 くそ忘れていた。

 この状態は尻尾も短くてバランスを崩しやすいし、何より身長も大幅に縮んだせいで足がどこに着地か予測する、なんかの普段日常で無意識に行っていることすら出来なくなる。


 これだからいやなのだ。われの生まれ故郷である龍の里でも【龍人化】を使っているやつなんかたった一人しかいなかった。


 われも含めた里の者は元々バランスがいい半龍人で生まれるからわざわざそんなものを使う必要がなかった。


 愚痴をこぼしながら赤子のようによたよたと

棒の前にすわる。


 そこからちまちまと捻っては交差させるを繰り返す。


 この世界に来て初の【龍人化】の成果は25メートルの紐を編んだことであった。


 サバイバル生活11日目


 「いい加減肉が食いたい…」

 

 この世界に来てまだコミコミの実しか食べてない。

 塩もないのに芋なんて食ってられるか!


 そうして日々積み重なってきた我の肉食べたい欲はもう止まることなどあり得ないとばかりに我を蝕む。


 安全に狩れそうな奴は、ジャンピングラビット(の子供)しか発見できていない。


 それ以外に見つけた魔物は大人のジャンピングラビット、石化の魔眼を持ったコカトリス、高速で空を飛ぶワイバーン。

 全て地図を作るときに千里眼を発動させて発見した魔物達だから相手の方からは認知されていないだろう。


 特にワイバーンがいたのは意外だった。

 この近くに巣でもあるのだろうか?

 ワイバーンエッグは貴族のパーティーでたまに使われるくらい貴重な物だ。

 一口食べれば体に魔力がめぐり大抵の病が治り、二口食えば傷が癒える

 

 ワイバーンエッグの上位互換であるドラゴンエッグは万病が治ったり、古傷が癒えたりと、ワイバーンエッグの比ではないが。

 そのせいでドラゴンエッグを求めてどこかの国の軍隊や、命知らずの冒険者どもが一挙に我の住んでいた龍の里に攻め込んできて手を焼かされたものだ……


 とにかく、今はワイバーンに喧嘩を売る必要は無い。

 ていうか出したら焼かれて骨も残らないだろう。

 

 他の魔物だが、ワイバーンよりも二段も三段も劣るが、それでもレインボースケイルと同じくらいレベルが高い。

 最近獲得した【強者殺し】に代表されるレベル差に応じてバフを受けられるスキルを持ってしても大したダメージも与えられん。

 レインボースケイルの時は洞窟を崩落させた末に倒した。決して我の実力だけで勝ったのではない。

 一発逆転できそうな要素もあまり無いし、勝てないだろう。


 できれば魔力を使わない弓や投擲機とうてききを作っておきたい。

 弓は弦を張る力がないから作れないからここは投擲機を作ってみるか。


 投擲機自体は細い蔓を編んで、真ん中に木の皮を取り付けるだけだから30分ほどで出来た。

 いつ猛獣と戦うかわからないから、的に当てる練習を今からでもしたほうが良いだろうと練習を開始する。


 「おらっ!」


 10メートル先の木を的にして石を投擲する。   

 石がぶつかり皮が少し捲れる。


 だいぶ的に当たるようになってきた。

 今日のところはこのくらいにしておいて寝床に戻るとするか…


 がさっ!ガサガサっ!


 思考が一気に戦闘モードに切り替わり音の主を探る。


 我が石槍を構えているとそいつは低い唸り声を上げて現れた。


 

 ハンターウルフエリート

Lv530 種族 狼型猛獣種   職業 なし


HP 20560 MP 2380 STR 26300 INT 2080 DEF 10300 AGI 8310 


スキル一覧

統率Lv5 指揮Lv2 爪強化Lv3 

全体強化(小)Lv2


称号一覧

指揮者 群れのリーダー



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る