十八話 生存戦略

洞窟が崩落する轟音に紛れて、か細い鳴き声が聞こえた。

 

ピロリン『単身でレベル差50以上の相手を撃破しました。称号【逆襲】を獲得しました。称号特典として【強者殺し】を獲得しました』


ピロリン『単身でレベル差100以上の相手を撃破しました。称号【大番狂せ】を獲得しました。称号特典として【ジャイアントキリング】を獲得しました』


ピロリン『単身でレベル差300以上の相手を撃破しました。称号【勇む者】を獲得しました。称号特典として【運命ノ微睡まどろミ】を獲得しました』



 脳内に響くアナウンスと同時に体に力がみなぎる。


 恐ろしい速さでレベルが上がる。

 体が書き換わるような感覚を覚えて吐き気が込み上げてきて、その場に膝をつく。

 

 レベルアップしたということは、どうやらレインボースケイルは死んだようだ。

 

 もし生きていたら、いつかは追いつかれて殺されただろう。

 

 しかし我のレベルが急上昇しているところを見ると死んだことが確定した。


 吐き気に翻弄されながらも、渾身のガッツポーズを作る。


 「我の勝ちだ、レインボースケイル!」 


 レベルは今の戦いで189レベルまで上がった。

 

 練りに練った策が身を結んだ。


 時は少し前に遡る。


 バルたち3人を殺した時、負傷したバルに使ったであろう、ポーションが綺麗な状態で残っていた。


 その時に閃いた


 (これ、使えるぞ!)


 持つだけで100レベルを超えた我でさえ殺せるだろうデスベリーを、この瓶に詰めておく。


 そうすることで、強者に出会っても逃げる時間を稼ぐことも出来るし、とどめを刺すことだって出来る。


 そう思い、時間をかけながら少しずつ瓶にデスベリーを入れていき、棒で潰しながら水で溶かしたものをレインボースケイルに投げつけた。


 そして、レインボースケイルを殺した最後の策。

 あの洞窟を崩落させて窒息死させること。


 この世界のすべてのものは我が元いた世界のものより強い。


 それは草木も例外ではなく、ボスジャイアントフロッグが溶解液で木を簡単に溶かして見せたが、我がボスジャイアントフロッグを狙った《地獄の火渦ヘルファイヤーストーム》は、足元の草を少し焦がす程度だった。


 そんな我の貧弱な魔法では、洞窟はおろか、木すら破壊できない。

 

 ではどうして洞窟を崩落させることが出来たのか?

 

 その答えはズバリ《審判ジャッジメント》様だ。

 やはり《審判ジャッジメント》様は不可能を可能にしてくれる。

 

 レインボースケイルの動きを鈍らせる時に使った《煙幕えんまく》と《凍える暴風フローズンテンペスト》で辺りの視界が悪かったから、《審判ジャッジメント》をがむしゃらに発動させてレインボースケイルの大まかな位置を知ろうとした。


 その時偶然、《審判ジャッジメント》が何かを捉えた。


 我の前に半透明の画面が表示された。

 そこには、



 トールング森林内部の洞窟の壁


 備考

 長い間地下水で侵食されて壁が脆くなっている。


 

 これを見た瞬間に勝利への小さな希望を見出した。


 煙幕が晴れて、何度も死にかけている間も脆くなっている箇所を探し続けた。

 そこに非生物に大ダメージを与えることができる《爆裂エクスプロージョン》を時間をおいて発動するよう調節する。


 そして、デスベリー入りの小瓶をぶつけて麻痺させているうちに逃げて洞窟を崩落させた。


 うーむ、自分でも信じられないくらい頭が冴えたな…


 我こんなに頭よかったかな?

 火事場の馬鹿力は本当だったのか。


 しかし今はそんなことよりも称号としてもらった【勇む者】が何なのか気になる。


 

 【逆襲】や【大番狂せ】の称号効果は、自分よりも強い相手と戦う時に補正がかかるスキルだということは何となく分かるが、この【勇む者】の【運命ノ微睡ミ】は全く理解できない。


 それに【勇む者】の文字が気に入らない。

 まるで勇者ではないか!


 勝って舞い上がっていたのにテンションが下がってしまった。

 そう言いながらも300レベル以上もレベルに差がありながらも勝利を掴み取ったことを静かに噛み締めていた。


 それはこの世界でも生き残れる可能性が僅かにでもあるということに他ならないから

 これからしばらくは森でサバイバル生活と行くか。

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