十七話 第二ラウンド
「第二ラウンドと行こうじゃないか」
戦いの火蓋が遂に切って落とされた。
煙が少しずつ薄くなる。
(捉えた!)
「ちぇいっ!」
限界まで固められた氷の牙を未だ錯乱しているレインボースケイルに突き立てる。
しかし強化したバエルの渾身の一撃は鱗を少し欠けさせるほどのダメージしかない。
対して相手は一撃だけでも当てるだけで即死させることができるのだ。
レインボースケイルは前脚を煩わしい
後ろに飛び、直撃を
砕け散った岩石が散弾銃のようにバエルを襲う。
ろっ骨に石がめり込み、骨が軋む。
歯を食いしばりながらお返しと言わんばかりに叩きつけられた前脚に5連撃をお見舞いする。
尻尾を鞭のように振るう。
尾の先端が音速を超える一撃は炸裂音を生じさせてバエルを木っ端微塵にする。
散らばったバエルだったものは光の粒になって消える。
《
炸裂音が洞窟の中で拡大、反射される。
それによって三半規管がおかしくなって耳の中で不協和音が乱反射する。
舌を噛んで倒れそうになる意識を再起動、振り下ろしからの突き上げをお見舞いする。
首を狙った攻撃も鱗に拒まれてその下を傷つけることはない。
レインボースケイルが大口を開ける。
バエルは飛び退き、元居た場所にレインボースケイルの大きな頭が突き刺さる。
突き立てた頭の側面に回り込み、目を一突きして即後退。
「これもダメか……」
貫抜かれたと思われた右目は未だ健全。
しかし目を突かれて不快げに身を捩らせる。
「ケァっ!」
レインボースケイルが短い奇声を上げて、最初の一撃のようにに舌を矢のように離れた位置にいるバエルに向かってその口腔から解き放つ。
幾度となく矢の如き舌で狩りをしてきた。
その命中度は高速でとぶ鳥も刺し貫いてきた。
ましてや狙う相手は自分よりも格下の獲物だ。
舌がバエルを貫くのは確定した未来であり、変えられない運命であった。
あり得ないことが起きてさすがのレインボースケイルも瞠目する。
舌が突き立ったのはバエルのすぐ隣の岩。
すぐ舌を抜き、鞭のように振るう。
しかしこれもバエルの上を通り抜けていった。
体が動かない。
絶対的強者であるはずの自分の体が動かない。
レインボースケイルは知らない。
自分は寒さに弱いことが。
《
「そこだっ!」
自分より小さなトカゲが投げた赤色の何かが入った透明な何かはパリンと音を立てて体に当たり、砕け散った。
また意味のない攻撃を。
レインボースケイルはそう思い、喉の筋肉に力を込めて鬱陶しいトカゲを爆音で吹き飛ばそうとする。
自分の攻撃が当たらないなら爆音で感覚を麻痺させて近づいてから食えばいい。
洞窟での咆哮は幾度となく繰り返してきた。
水を飲もうとやってきた獲物たちは、舌で貫かれる。
あるいは咆哮の前に屈して、生きたまま食われていくかの二択だった。
あの小さなトカゲは方向に耐えられる訳もない。
「!!」
十分に喉に力を込めた。
後はあの哀れな獲物に放つだけ、だけなのに……声が出ない。
「ガッカカッ!」
口を裂いて出たは、獲物にとって『死』の声である咆哮ではなく、弱った獲物の出す小さな唸り声。
それどころか体が全く動かない。
先ほどは体が動きづらい程度だったのに。
「クックック、まんまと策にはまったなレインボースケイルよ」
この小さなトカゲが言ったことをレインボースケイルは理解出来ない。
ただ、非常に不味い状況であることが理解出来た。
そんな状況にも関わらず、レインボースケイルは冷静だった。
こいつには自分を殺すどころか傷をつけることも出来ない。
唯一心残りがあるとするなら獲物に逃げられることだ。
しかし逃げても構わない。
なぜなら自分は鼻がいい。
逃げてもどこまででも追いかけていってやる。
牙を剥き出しにして邪悪な笑みを浮かべる。
その笑みに恐れ慄いたのか、小さなトカゲが洞窟に入ってきた道を引き返していく。
この痺れが解けたら追いかけまわして食ってやる。
足が少しだけ動いた。
麻痺が溶けかけている。
これぐらい動けたらすぐに追いつける。
そのまま走ろうとした瞬間、壁が迫ってきて、レインボースケイルは黒の波に飲まれていった。
用語説明、
HP=体力 MP=魔力量
STR=物理攻撃力 INT=魔法攻撃力
DEF=防御力 AGI=素早さ
この小説では魔法は《》、スキルは【】を使って表しています。
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