一話 異常事態
断罪の魔王、バエル=オルゾビュート•デメキシスは生き絶えて、地に伏した勇者を見下ろす。
今回の勇者は惜しいところまで行った。
やはりもう少し遊んでも良かったか?とも思うが物事には全て終わりが来る。
ここで殺すのがベストだったのだろう、しかし、数あるプレイヤーの中で彼が1番惜しいところまで来たのだ。
ほんの少しの後悔が自分の中に湧き上がるのを自分では止めることはできない。
「魔王様、お考えのところ申し訳ありません。そろそろ報酬の方を〜」
これまでの一同の旅を見てきた中ではとりわけプライドの高い魔法使いが媚びへつらった態度をしているギャップに若干頬を引くつかせながら、
「ふむ。報酬を渡していこう、『生命の水が入った小瓶』と『砂のない砂時計』だ。
このアイテムは小瓶の方は飲むと永遠の命が手に入り砂時計は装備しておくことで若返ることができるアイテムだ。」
魔法使いは感情のあまり声にならない声で感謝の意を示した。
さて次は戦士だったか、
「お前の望みを聞こう。」
戦士は岩のような顔を歪め
「私は…尽きぬ酒と数えきれぬ美女をもらいたく存じ上げます」
全く、いつもは硬派で女に興味がないと思わせておきながらとんでもなく欲に忠実な男だ現在も自分の膨れ上がった下腹部を隠しもせずに生き生きとそう言う男にとバエルは少し呆れる。
しかし、これほどまでに人の本性は醜いのかと思い、彼の中は愉悦や嘲笑や形容しがたい感情が渦巻いていた。
はじめてこのような方法で勇者を殺した。
今まではめんどくさいからと一撃で終わらせてきた。
またこの世界に勇者がきたらもっと過激な最後を迎えさせることもいいかもしれない。
話が脱線してきたと気づきなんて言おうとしていたかを思い出す。
「よかろう、戦士よ…サキュバスの館に貴様を送ろう、そこでその欲望を発散させるといい。」
感謝の言葉らしきものを戦士が言っていたがこの男と相手をするのもバカバカしくなってきたのでとっとと《
「さて、最後は君だが要望を聞いておこう。」
「ハイっ!私は勇者様と一生暮らしたいです♡」
愛とは人を狂わせるものなのか、やはり愛とはクソめんどくさいものだなぁとバエルは思った。
興味本位で彼女にこの世界は作り物で勇者がお前に向けているのは本当の愛では無いと伝えたことは本当にいい判断だった。
この世界の法則の隙をついてこの世界のことを伝えるのはひと苦労だった。
しかし、彼女に伝えた後は何もしていない。そう、彼女には何もしていないのだ。
彼女は最初は動揺して自傷行為をして治癒する。
拷問官もびっくりな方法で気分を落ち着かせていたがある時彼女の中で考えがまとまったようで次々と仲間達を洗脳していった。
何でも《
戦士や魔法使いが怪我や疲労を訴えたときに回復魔法をかけると同時に気づかれないよう感情を激しくする魔法をかけ続けた……
そして己の欲が高まった時に我が裏切りの報酬に願いを叶えると言った提案をしたら驚くぐらいすんなりと魂を売ってきた。
先ほど勇者には仲間にならないかと誘ったがそれはあくまで魔王の決まり文句として言っただけであったが、この僧侶は本当に部下に欲しいと思ってしまう。
だが、彼女とは勇者と静かに暮らす代わりにこちらの言う通りに行動すると言った契約を結んでいたためその考えは自分の心にしまっておくとしよう。
それにしても次のプレイヤーが自分の『イージー』の世界に入ってくるまで暇で仕方がない。
だが自分で言っておいてなんだが、ここまで勇者を弄んで殺したと言うのに難易度『イージー』の世界の魔王だと言うのが信じられない。
数多の世界を根本から支配する『管理者』なる存在によると、この世界の他に数えきれないほどの『イージー』の世界の他にも『ノーマル』、『ハード』、噂でしか知らないがさらに上の難易度もあると言う。
難易度の壁で区切られているらしい。
(まあ我とは関係のない話だが…)
我がこの世界の
我はレベル99だがそれよりも強い存在がいることに疑いを隠しきれない。
それに狡猾さも跳ね上がってくるらしい。
一体どこまで頭が切れるのだろうか?
恐ろしいものだ……
まあ、現勇者が死んだ今、次の勇者が入ってくるまでに計画を練った方がいいな。
我の狡猾さが上がると世界の難易度が上がるらしいから次はどのような策で絶望に叩き落としてやろうか。
そういえば我はこんなにも狡猾であっただろうか?
あの勇者が最高に虐め甲斐があったからかもしれん。
『ガガッザザザ』
ん?何の音だ?もう次の勇者が入ってきたのか?
その瞬間世界が止まった…そして自分がコワレタ
ピロリン『一部のデータが破損しました。
ただいま壊れたデータを解析中
…破損したデータはNo.0579516
固体名bahle
システム権限『魔王』を維持する事は不可能と判断。
権限回復のため別サーバーにランダムで移行
…抽選終了サーバーネーム【メルトルシア】難易度『ヘル』健闘をお祈りします』
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