第4話 ササキ君のこと
どのくらい時間がたったのでしょう。気が付くと病院のベッドの上でした。お母さんが
いました。
「良かった。心配したのよ。」
だんだん頭がはっきりしてきて何があったか思い出しました。
「タナカ君は?」
「大丈夫。今、治療を受けているわ。」
「死なない?」
「死なない。」
お母さんの言葉を聞いてホッとしました。お母さんの話では、あの場所の近くに住んでいた人がタナカ君の叫び声に気づいてすぐに救急車を呼んだのだそうです。
「アマミヤ君と飼っていた犬は?」
「さぁ。よくわからないけど学校の先生に付き添われて警察に行ったみたいよ。」
僕はお母さんの言葉を聞いて心配になりました。なぜならあれは事故ではなく、アマミヤ君が命令したのを知っているからです。あの時確かにアマミヤ君が“やれ!”と言ったのを聞いたのです。アマミヤ君は警察に捕まってしまうのではないか心配になりました。
病院にいながら僕はカウンセリングを受けることになりました。アマミヤ君も同じとのことでした。カウンセリングの際、担当の女性の先生が
「あなたはササキ君?」
と聞いてきたので
「ハイ。」
と答えました。
「そう。アマミヤ君のお友たちなのね?」
「ハイ。」
このような調子でいろいろと聞かれてすぐに嫌になったのをおぼえています。
僕は受けたショックが大きかったのでしばらく入院していました。そんな時一度だけアマミヤ君がひとりでお見舞いに来てくれました。僕は嬉しくもあり怖くもありました。
「よく来てくれたね。」
「うん。」
「タナカ君は大丈夫だった?」
「うん。でもまだ学校にはきていない。」
「そう。・・・ブンタはどうしているの?」
「お父さんの田舎に連れていかれた。」
「そう。・・・」
「・・・僕がいけなかったんだ。」
「え?」
「僕がブンタに命令したから。・・・」
やっぱりと思いました。
「僕、ブンタにタナカの首をかむイメージを普段からテレパシーで送ったんだ。」
「・・・そんな事できるの?」
「うん。ブンタに限らず動物とは意思が通じるんだよ。」
僕は怖くなりました。あんなにおとなしそうなアマミヤ君がそんな事を普段からブンタに伝えていたなんて。
「ありがとうね。」
と突然アマミヤ君が言いました。
「何が?」
「僕が“やれ!”って命令したことを誰にも言わないでいてくれて。」
「あぁ。・・・まぁ。・・・タナカ君も警察に言わなかったのかな?」
「・・・あの時の事、ほとんど覚えていないらしいよ。」
「そうか。・・・」
少し黙っていましたが僕は心を決めて
「今までごめんね。いじめられていても助けることもしなくて。」
と言いました。
「いいよ。わかっているよ。仕方ないよ。」
と言ってくれました。僕は心のつかえがすこし取れた気がしました。
やがて、あっという間に卒業式を迎えました。僕は退院していましたがお母さんからまだ学校へは行かない方がいいと言われて卒業式には出ませんでした。その後、三人とも中学は別々になり、会えないまま、時が過ぎていったのです。
「先生、タナカ君を憶えていますか?どうしているんだろう。。」
「え?・・・」先生は急にしどろもどろになりながらこう言いました。
「・・・確か、お父さんの仕事の都合で遠いところに行ってしまったよ。その後はわからない。」
「そうでしたか。・・・」
「ところでアマミヤ君。」
「え?・ササキですけど。・・・・・」。
「ごめん。今はササキ君なんだっけ。カウンセラーさんから聞いているよ。君は飼っていた犬がタナカ君を大けがさせた良心の呵責に耐えかねて空想上の友だちと入れ替わって生きてきいるんだよね。」
そうか。アマミヤ君は僕だったのか。僕はタナカ君と仲良くなりたかったんだっけ。転校生のササキ君にになればタナカ君と友だちになれると思って。・・・
終わり
アマミヤ君のこと 光河克実 @ohk0165
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