第3話 やれ!

その後はタナカ君の言う事に従い僕はアマミヤ君と遊ばなくなりました。学校のクラスでは相変わらずアマミヤ君はいじめの対象になっており、ますます孤立していました。僕はできるだけ係わらないようにしてアマアミヤ君のことを考えないようにしました。

 でもあの日、僕はタナカ君と遊んだ帰り、アマミヤ君とバッタリ会ってしまいました。ブンタと散歩中だったのです。ブンタは僕のことを覚えていてくれたらしく僕に向かって喜んで近づきましたが、その時、タナカ君が

「アマミヤの犬だ!気もち悪い!近づいてくんな!」

と言いました。その後も

「飼い主に似てボーッとしてんなぁ。」

「ブサイクな顔!」

とブンタを馬鹿にしてからかいました。僕はさすがに

「そんなことないよ。けっこうかわいいよ。」

と言いました。ブンタもアマミヤ君もかわいそうになったのです。ブンタはタナカ君にいかくしてウーッとうなりました。その時、アマミヤ君がポツリと言いました。

「僕のことはいいけどブンタの悪口は言うな!」

いつもと違う、き然とした物言いだったので驚きました。その言い方が気に入らなったのでしょう、タナカ君はむきになって尚も、意地悪にブンタの事を

「クソ犬、バカ犬!」

と言ってからかい、ブンタに向かってキックをしました。当たりはしませんでしたが当たっていたらけっこう痛かったにちがいありません。(やり過ぎだ!)そう思った瞬間、アマミヤ君は確かにこう言ったのです。

「やれ!」

次の瞬間、ブンタがタナカ君に向かって飛びつきタナカ君の首筋を噛みつきました。

「ギャアー!」

タナカ君が叫ぶとその首から血が噴き出しました。

「ひぃー!」

僕は人の身体からあれだけ多量の血が噴き出す事に驚きました。タナカ君は半狂乱になってブンタを引きはがそうとしますがブンタの顎の力は強すぎました。ゴリゴリという音がタナカ君の首から聞こえました。骨に牙が当たっているようでした。それを見てアマミヤ君はニヤニヤしていました。僕は大好きなタナカ君が目の前で死んでしまうと思いました。

「アマミヤ君!ブンタ!もうやめて!死んじゃうよ。」

僕は必死になって叫ぶと頭がクラクラしてきてへたりこみ、そのまま気を失ってしまったのです。


 どのくらい時間がたったのでしょう。気が付くと病院のベッドの上でした。お母さんがいました。

「良かった。心配したのよ。」

だんだん頭がはっきりしてきて何があったか思い出しました。

「タナカ君は?」

「今、治療を受けているわ。」

「死なない?」

「病院にいるんだからきっと大丈夫よ。」

お母さんの言葉を聞いてホッとしました。お母さんの話では、あの場所の近くに住んでいた人がタナカ君の叫び声に気づいてすぐに救急車を呼んだのだそうです。

「アマミヤ君と飼っていた犬は?」

「さぁ。よくわからないけど学校の先生に付き添われて警察に行ったみたいよ。」

僕はお母さんの言葉を聞いて心配になりました。なぜならあれは事故ではなく、アマミヤ君が命令したのを知っているからです。あの時確かにアマミヤ君が“やれ!”と言ったのを聞いたのです。アマミヤ君は警察に捕まってしまうのではないか心配になりました。

                                   続く

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