第2話 犬のブンタ

 この頃、僕には一つの楽しみがありました。それは家の近所に犬を飼っている家があり、学校帰りに見に寄っていたのです。人なつっこいその犬は僕がそばによるとしっぽを振って歓迎してくれました。僕は家の人に気づかれないように給食で残したパンのはしっこをあげたこともありました。

 そんなある日の学校からの帰り道、タナカ君たちと別れ、その犬のいる家に近づくと先客がいました。アマミヤ君でした。

「あれ、アマミヤ君もその犬と仲良しなの?」

僕がそう言って近づくとアマミヤ君は最初ドギマギしているようで、小さく

「うん。」

と言いました。

「かわいいよね。その犬。」

「うん。」

この時が僕とアマミヤ君が会話らしい会話をした最初でした。しばらく二人でこの犬を見ていろいろ話をしていると

「僕の家にも犬いるけど見に来る?」

とアマミヤ君が言いました。

「なんだ。アマミヤ君、犬飼っているの?行く行く!」

こうして僕はアマミヤ君の家に遊びに行くことになりました。


 アマミヤ君の家は、なかなか立派な一軒家で、その庭に彼が飼っている犬がいました。名前はブンタといい白い色をしています。ブンタはとてもアマミヤ君になついていて、その姿をみるなりシッポを振って喜び、アマミヤ君の顔をなめまわしています、

「かわいいねぇ。」

ぼくがそう言うと

「ブンタは四国犬という種類で、警戒心が強いから気をつけてね。」

とアマミヤ君が言いました。そして四国犬は

主人に忠実なので番犬や猟をするのに向いているのだと教えてくれました。しばらくするとブンタが僕の足に頭をこすりつけてきました。少し馴れてくれたようです。

「頭をなでてみる?」

「うん。」

僕はブンタの頭をおそるおそるなでてみると気持ちよさそうでしたので、うれしくなりました。その後、はじめて犬に顔をなめられました。その様子を見てアマミヤ君も笑顔でした。


 その後、ちょくちょくアマミヤ君の家に遊びに行くようになりました。ブンタを連れて一緒に散歩することもありました。でも学校では一緒にはいませんでした。あいかわらずタナカ君とその仲間はアマミヤ君をいじめたりからかったりしています。僕は何もできずに遠くでみているだけでした。そのことを二人で遊んでいる時にアマミヤ君は何も言いませんでした。


 そんなある日。学校の休み時間にタナカ君が僕の所に来て

「最近、お前、アマミヤと遊んでいるんだって?」

と言いました。ドキリとしました。

「お前とアマミヤが犬連れて歩いているところをサトウが見たってよ。」

とタナカ君。まわりにいる仲間も

「まじ?」

「キモチワリィ。」

と言いました。

「たまたま道で会って、犬がかわいいから少し話しただけだよ。」

と僕は弁解しました。

「ウソだね!ずーっと一緒に歩いていただろ!」

タナカ君に告げ口したサトウ君が言ったので

「違うよ!」

と必死になって言いました。サトウ君は

「アマミヤと友だちなんだろ!」

と言ったので、つい

「友だちなんかじゃないよ!」

と言いました。その時は後ろから視線を感じました。振り向くとそこにアマミヤ君がいました。すごく気まずくなり下を向きました。

「まぁ、いいよ。でもこれからは、アイツと仲良くすんなよ。」

とタナカ君が言ってくれたのでその場はそれで済みました。僕はアマミヤ君を裏切ったのです。

                                  続く

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