ep.Ⅱ-5
「私どもからみれば、異世界より来られた貴方さまは、紛れもなく勇者さまで在らせられます」
「国王のおじさん、わたしの話聞いてる? ジョシコーセーは素敵だけど、無敵じゃないの」
「いいえ。そんなことはありません。聡明であらせられる異世界の勇者さまならば、お気づきでしょう。勇者さまと私たちとでは、住む世界の環境が大きく異なります。長年の経験則から、異世界より参られた勇者さまには、私たちが欲しても手にできない身体能力や特別な力を備えておられると熟知しております」
「まじ?」
少女は自分の両手をじっと見る。
「こっちに来るとき、白髪の老人や羽の生えた女神からスキルをもらった記憶なんてないんだけど。ほんとに特別な力なんてもってるの?」
少女の疑問に答えるように国王は右手を上げて、三人の側近に指示を出す。
三人は剣を抜くなり振り上げ、少女に襲いかかる。
「きゃあぁっ」
少女はとっさに、迫り来る剣を左手でなぎ払う。
エヴォルグは見た。
少女の腕のひと振りで疾風が巻き起こり、側近たちが持つ剣が叩き折られていくのを。
無惨に折れた剣が床に散らばった。
「な、なにこの力。これが、わたしの力なの?」
「どうやら、風魔法が使えるようですね」
「いまのが、魔法?」
両手をじっと見つめる少女に、国王は頭を下げる。
「どうか、人智を超えた知識と力を、非力な小国であるゾーゼ大国の窮地を救うため、せひともお貸しいただきたく、お願い申し上げます」
「でも、わたし一人でなんて……」
「軍隊をもたないゾーゼ王国には、力のない女や子ども、老人も多く、五千万人ほどが暮らしております。卑劣なる北ベリア帝国の力による支配から、どうかお救いください」
「そりゃあ、困ってる人を助けてあげたい気持ちはあるよ。知らないうちに特別な能力が使えるようになっているのもわかった。でも、わたしだって人間。バケモンじゃない」
「もちろん、勇者さまが私どもの王国にいる間は、不自由のない暮らしが送れるよう、万全の対応をさせていただく所存です。侵攻を退け、平和となったときには速やかに、勇者さまが暮らしていた元の世界へと帰られるよう、務めさせていただく考えです」
「嘘だっ」
エヴォルグは叫んだ。
「勇者を召喚できても、帰すことはできないんだ」
少女は振り返り、国王は右手をかざす。
「勇者さま、子どもの戯言です」
「嘘じゃないっ」
次にエヴォルグが叫んだとき、異変に気づいた。
国王や少女が突然、聞いたこともない言葉でしゃべりだしている。
エヴォルグはあきらめず、大声を張り上げた。
今度は自分の声がおかしい。
ぼやけて遠くなっていく。
まるで、耳が聞こえなくなっていくみたいだった。
声が枯れるまで叫んでいるのに、自分の声すら聞こえない。
しかも全身から力が抜けていく。
体がふらつきよろめいたエヴォルグは、膝を付き、石畳の床に倒れてしまった。
『勇者召喚には多大な魔力を消費する』とワリタボリ技法書に記されていたのを思い出す。
だからといって、ここまで力が抜けるものだろうか。
「く、くそぉ……」
目がかすむ。
視界がぼやけていく。
少女に腕を伸ばそうとしながらエヴォルグは、意識が遠のいていった。
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