twist 見つけ出した青い光

ep.Ⅲ-1

「……母さん」


 暖かなぬくもりに包まれた感触から目覚めたエヴォルグは、寝返ってはギュッと抱きしめる。顔を埋めながら、再び深い眠りに入ろうとした。


「そんなに似てるのかな」


 頭の上から声がする。

 なんだろうと目を開け、自分がどこにいるのか確かめようと首をひねろうとした。柔らかくて重みのあるものに、頭がはさまれている。

 白いシャツに収められてはいるが、掛けられたボタンはギチギチになっていて、今にも弾け飛びそうなほど大きかった。


「大丈夫? 急に倒れたから心配したよ」

「その声……勇者さま?」


 薄暗い中、体を起こしたエヴォルグは、自分が召喚した少女と向き合う。いままで枕だと思って寝ていたのは、少女の膝上だったことに気がついた。


「わあああぁぁーっ」


 慌てて膝をついてひれ伏し、申し訳ありませんと許しを求めた。


「膝枕ぐらい、いいって」

 あはは、と少女は笑った。

「ぜんぜん気にしてないから。しがみついてきたときは、さすがにビックリしたけど。でも、わたしも心細かったから、ね」


 窓から差し込む月明かりに照らされて、少女の微笑む顔が見えた。

 さすがは勇者さま、とエヴォルグは感心した。


 なにもかもわからない状況に放り込まれたのに、笑うことができるなんて。突然の召喚により、見知らぬ異世界――ゾーゼ王国に彼女は無理やり連れてこられたのだ。しかも一人きりで。


 父親が死んだときはどうしていいのかわからず、埋葬が終わるまで泣きっぱなしだった自分とは大違いだ。


「勇者さまは、本当にお強いんですね」

「え? わたしの話聞いてた? 心細かったんだって。でも、きみがいてくれたおかげで、寂しくはなかったよ」

「オレのおかげ、ですか」


 少女の言葉を聞いて、エヴォルグは喜ぶべきか申し訳なくすればいいのかわからず、うつむいてしまう。

 国王の勅命とはいえ、勇者召喚を行ったのは自分なのだから。


「ねえ、きみのお母さんはどうしてるの? さっきも呼んでたけど」


 少女の問いかけに、エヴォルグは顔を上げた。

 目の前の少女と、母親の面影が重なって見えてくる。


「オレが赤ん坊のころ、はやり病でなくなったと聞きました」

「あー、ごめん。そうだったんだ。悲しいよね」


 両手を広げながら近づいてきた少女にエヴォルグは、いきなり頭をギュッと抱きしめられる。


 もにゅんとした柔らかさに頭が沈み込んでいく。ひんやりした感触と、とくとくと響く心音に心地よさをおぼえ、不安や寂しさが溶けて心が穏やかになっていく。しかも、花のようなかぐわしい香りに鼻孔をくすぐられる。


 幼いころに嗅いだであろう母の匂いを思い出し、気づけばエヴォルグは涙を流していた。

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