ep.Ⅱ-4
「じゃあ、ここって異世界?」
眉間にシワを寄せる少女は、暗い顔をして国王をみる。
「勇者さまにとっては、そうなりますね」
少女がどんな態度を見せようとも、国王は臆せずにうなずく。
「だったら、どうして言葉が通じるわけ? ひょっとして魔法?」
「さすがは勇者さま。聡明でいらっしゃる。ゾーゼ王国の王宮には、多くの諸外国からの使者が訪れます。文化だけでなく話す言葉も違うため、齟齬が生まれてしまいます。よどみなく外交を執り行うためにも、王宮内では不自由なく会話ができるよう、魔法をかけてあるのです」
「へえ、便利ね。魔法なんて、まさに異世界って感じがするよ」
疑問が解けたからか、少女の顔に笑顔が見られるようになった。
「召喚の件も含めまして、勇者さまが抱かれている数々の疑問にお答えするべく、現状をご説明させていただきます」
少女の笑顔に気をよくして、国王は語りはじめた。
「現在、わが王国には危機が迫っております。北ベリア帝国の南下政策による武力侵攻が開始され、国境目前にまで軍隊が押し寄せている状況です」
「軍隊?」
少女は聞き返す。
「わが王国は古来より、平和を尊び、近隣諸国とも友好関係を築きあげてきました。危機に際しては自衛権発動の名のもと、勇者召喚を行い、蛮行を働く敵の侵攻を阻止してきた歴史を持ちます」
「なにそのゲームみたいな設定は。自衛権で勇者召喚? 勇者って、ミサイルや戦車扱いなの?」
「ミサイル……とやらがなにかはわかりません」
「ミサイルっていうのは、目標めがけてピューっと飛んでいって当たってドカンと爆発する、ものすごい威力のある攻撃兵器なんだけど……それより、どうして自分たちで戦ってなんとかしないわけ?」
少女は思った疑問を国王にぶつけていく。
対して国王も、うろたえる様子も見せない。
「ゾーゼ王国は、ティビア、フォピャ、シャトイヤの国々と共に神々が降臨された聖地イルミナスルを守護する四王国の一つであります。聖地を守護するために神々の力を有しているため、諸外国が保有する軍隊をもっていないのです」
「へえ、立派だね。軍隊なんて、戦争という暴力を作り出す機械そのものだから、ないほうがいいよ」
「とはいえ、他国による侵攻の脅威は常にあります。だからこそ、わが王国は、神々の力である勇者召喚をつかって自衛権を行使するのです」
「あー、そういうことね。だいたいわかった」
少女は深く息を吐いた。
「ご納得いただけて、なによりです」
国王は目を細めて、口元をゆるませた。
「今回、重ねに重ねてきた外交努力も虚しく終わり、北ベリア帝国は力による一方的な武力侵攻を選択してきました。打つ手なしと判断した我々は、慣例に則り、異世界の勇者を召喚した次第です」
「それが、わたしなのね。でも残念。無理だよ、無~理~」
少女は顔の前で大げさに手を振ってみせる。
「無理とは?」
「ただのジョシコーセーが勇者なわけないって。クラス委員はしてるけど、部活は運動部じゃないし、走るのは苦手だから」
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