ep.Ⅱ-3

「そっちこそ、なにするんだ……よ」


 押しのけて顔を上げたエヴォルグは、目の前に立つ少女の姿を見て、驚きのあまり言葉がでなかった。


 父が大事にしていたワリタボリ技法書にはさまれていた母の絵と同じ、青いネクタイに紺色のブレザーとスカートを着ていた。


 大きな目。小柄な体型。肩に届くくらいの長さの髪も、エヴォルグと同じ淡い茶色をしていて、耳元で結わえられている。赤茶けた革靴を履き、背中には黒いカバンを背負っていた。


 違うところといえば、白いシャツがはち切れんばかりに膨らんでいる胸ぐらいだった。


「か、母さん……」

 エヴォルグは思わず立ち上がった。


「なにいってるの、違う。きみ、ショーガクセイ?」

 異世界より召喚された紺色の制服を着た少女は、腕組みをして目を細める。

「そりゃあ、きみみたいな子には、ジョシコーセーのわたしは大人に見えるかもしれないけど、さすがに無理があるって」


 母は幼いときに死んだ、と父から聞かされた。

 よくみれば、絵にあった母の顔と面影が違う。

 着ているものが同じだったから、思わず口に出てしまったのだ。


「……勘違いです」

 エヴォルグはうつむいた。


「素直でよろしい。それじゃ、わたしは帰るから……って、え?」

 異世界の少女は、慌てて辺りを見渡した。

「え、えっと……どういうこと? さっき校門を出たはずなのに、また建物の中って。どうなってるの」


 自分が召喚したから、とエヴォルグがいいかけたときだ。

 手を叩きながら国王が、少女へと近づいていく。


「外世界に住まう異世界の若き勇者よ。よくぞ、ゾーゼ王国に参られた。心より、歓迎を申し上げます」

「おじさん、誰?」

 異世界の少女は、振り返るや拳を握っては身構え、国王をにらみつけた。


「不敬であるぞ!」

 側近の男たちが、腰にたずさえた剣を抜こうと手をかける。

「よいよい。勇者さまはお越しになられたばかりなのだ。知らぬのも当たり前ではないか」


 国王は右手を掲げ、側近たちを落ち着かせた。


「私は、第一〇一代国王、ケント・キシダメヌスと申します。突然の召喚、さぞや戸惑われておられるでしょう。心より、お詫び申し上げます」


 国王が小さく頭を下げるをみて、少女は拳を下ろし、警戒をゆるめた。


「いま、召喚っていったよね」

「申しました」

「召喚って、あの召喚?」

「あの召喚とはどの召喚かはわかりませんが、勇者さまの後ろにいる召喚師の手により、わがゾーゼ王国にお招きした次第です」


 少女は瞬時に振り返る。

 目が合うとエヴォルグは、小さくうなずいた。


「まじかー」


 少女は額に手を当て、天井を仰いだ。息を吐き、肩を落としてうなだれる。

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