ep.Ⅰ-2

 仰向けになっているヴォルムは目を閉じ、息を吐いた。やがて、まぶたをゆっくりと開けた。


「ゾーゼ王国二千年の歴史は、勇者召喚によって守られてきた。威厳と力を国内外に見せつけるべく、戦争状態にある地へと勇者を送り、抑止力としてきた」

「今回の勅命も、そのため?」

「表向きは、な」


 ヴォルムは深く息を吐いた。

「外世界より勇者を召喚するのはつまり、若くて美人で有能な女子を呼び寄せることでもある。キシダメヌス国王は、多くの勇者を召喚させては子どもを産ませ、出生率向上による人口増加に弾みをつけようと考えているようだ」


「なんだよそれ。まじかよ」

「王国民からは絞れるだけ税金を搾り取り、召喚された勇者には産めるだけ子どもを産ませる。それが、王国が執り行ってきた政治なのだ」


 エヴォルグは、書簡の続きを読んでいく。

「……本当だ、書いてある。『王国のため、より多くの若くて有能な美少女を召喚して子を産ませ、活力を与えなければならない』って。こんなの、人さらいと同じ。オレたちの国王って最低じゃないか」


「最低だが、最悪ではない。やり方はどうあれ、王国民を救うための政策を行ってきたおかげで、わしらは二千年もの長い歳月を、今日まで生きながらえてきたのだ」

「だからって、好き勝手に召喚されて、いいように利用される勇者が不憫すぎるだろ」


 書簡を握りしめて振り上げるエヴォルグは、力いっぱい床に叩きつけた。

「こんな腹立つ命令に従うのが嫌になったから、父さんは王宮を出てきたって話してくれたよね。国王のいうことなんか、聞く必要はないよ」


 ヴォルグは、ゆっくりと首を横に振った。

「だが、勅命を受けたのだ。ゾーゼ王国の召喚師として生きている以上、断ることは生きている限り許されん」


「だけど、病気の父さんに召喚は無理だよ。召喚には魔力を使う。そんな体で召喚をしたら、死んじゃうよ」

「わしが断れば、おまえが行わねばならない。召喚師は家系により、引き継がれるもの。わしの後を継がせるために、おまえに教えてきたのだ」


 エヴォルグは背中を伸ばし、目の前に横たわる父親を静かに見下ろした。

 病気で倒れて食欲も失せたせいか、ふくよかだった父の体つきは見る影もなく、枯れ木のように痩せ細っている。


 取り憑かれたように魔法陣の研究に没頭したあげく父は、体を壊した。そんな父を治してあげたかった。

 薬師の学問を学びたくても、いずれ父の後を継がなくてはならない。その意味を、頭のどこかではわかっていた。わかっていたから、いわれるままに学んできた。


「オレが、召喚を?」

「気後れする必要はない。先代から伝わる魔法陣を描き、自分の魔力を注げば召喚できる」

 ヴォルムは、震える指先で書物の棚を指さす。

「すでにやり方は教えてある。おまえならば、立派に勇者を召喚できるだろう」

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