第三章『ゆらゆらゆれる夏休み』 ②
夏が終わるかもしれない。
外に一歩踏み出したとたん、そう思った。もちろん夏は終わる。その次に秋が来る。でも、この夏、終わってしまえばみんなそのままではいられない夏が、嫌でも景色が一変する夏が終わってしまうかもしれないのだ。そうしたら“今”は、もう二度と戻らないかもしれないのだ、そんな当たり前のようで、ほんの少しだって理解できそうもないことを、しみじみと思った。
そう感じながら歩く道は、とても長く感じた。
きっと心の中を誰かに覗かれたなら、ロマンチストだとバカにされるに違いないこと--昨夜振った雨の一滴が葉っぱについていたり、それが反射していたり、この瞬間世界でいちばん小さいであろう虹にそっと触れたりした。
“いつもの場所”というのは、やっぱりファミレスのガレージだった。
可絵はまだ来ていなかった。わたしは車止めに座った。
ポケットからスマホを出した。ずっと通信は止まっていたのにすっかり慣れてしまっている。スマホを閉じて目の前をじっと見る。またスマホを見る。ここにも世界があって、そしてここにも、あそこにも、そっちにも。
「ごめん、待った?」
可絵がやってきた。今日もバイトのTシャツを着ていた。
「ううん、今来たとこ」
わたしは言った。
「暑過ぎるやろ。なぁ?」
可絵は言った。
「うん。でもすぐ終わるやろ」
「え?」
さっきまでの考えがまだ頭をめぐっていて、つい変な返し方になった。
「ううん、めっちゃ暑いな」
あわててわたしは言った。
「恋、ちょっと痩せた?」
可絵がわたしの腕をさわった。
「そうかな?」
そう答えたけれど、そういえば最近適当な食事ばかりしていた。まだわたしの腕にはミサンガがついていた。「これ」--わたしは言った。「すごいな、こんなん自分で編むって」「簡単やで。こんど教えてあげる」「いやー、恋には無理そう」わたしは言った。「恋、ほらまた、すぐ無理って言わんといて」可絵が言った。
「だって恋、そんなん無理やもん。器用じゃないし。ぐちゃぐちゃになって、絡まって、元に戻らんくなるわ」そう言ってからわたしはケラケラ笑った。「なんで笑うんさ」可絵が言った。「なんでやろう、なんでか分からん」わたしは言った。
「だからさ、恋……いや、やっぱいい」
可絵が言った。
「なに?」
まだ笑いながらわたしは答える。
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