第二章『きらきらひかる夏休み』 ①⑧


 レジでは、大荷物を抱えて物を売りにきた人たちが並んでいる。

 まるで夜逃げでもしてきたような量である。

 なのにそれぞれの表情は期待に満ちている。何円で売れるか、そのあと何か買おうか、そんなことを考えているのかなあと想像してみる。

 考えている間に可絵はもういない。店内入ってすぐは家具や食器などが置いてあって、奥が服になっていた。大量にかけられている服をかたっぱしから手に取っている。そのたびカチャカチャとハンガーの鳴る音。

 わたしもなにか見ようかと、店内をうろうろしていたらすれ違いの客とぶつかる。狭い通路に人がたくさんいて、どこに立っていれば良いか分からない。そして鼻の奥がムズムズしてきて我慢して手を当てていたけれどもくしゃみが出た。くしゃみが出ないよう、くしゃみをしたのでくしゃみなのか咳なのか、ひとりごとなのか、どれにも当てはまらない。

「ほら恋、これ」

 可絵がマスクをくれた。

「持ってきてたん? すごい」

「うん。うちも久しぶりやけど昔よく古着屋行ってたから」

「へぇ」

 マスクを装着するとなんだか帽子を目深にかぶったみたいでほっとした。よし。わたしもこのへんから見ていこう。目の前のブラウスコーナーを探る。そして一分後には、一目惚れした真っ白いフリルのブラウスを誰にも取られないように確保していた。値札には300円と書かれている。袖が少しほつれているけれど、後で直せばいいや。裁縫なんてできないのに、心は躍った。

「恋、どう?」

「うわっ、心臓止まるやん、もうー」

 いつのまにか試着していた可絵が、飛び出してきた。たまたま試着室の近くにいたわたしは、まだドキドキしている心臓を手でおさえた。

「めっちゃ可愛くない?」

 オーバーサイズのジャケットを着た可絵は、お世辞ではなくアパレルの店員さんみたいだ。アイボリーに、茶色のボタン。足首がほっそりしているので、上半身にボリュームがあっても、服に着られている感じがない。どこからかコインのネックレスまで見つけてきた可絵は、試着室で後ろを見たり、またくるっと回ったりで忙しない。

「バイト代入ったから、いっぱい買おうっと」

「可絵、可愛い、似合ってる」

「そうやろ?」

 いつかわたしも誰かに褒められたとき「そんなことないです」などと言わないで、まるっと受け入れてみたいなあと可絵の返事を聞いていたら気持ちが快晴になった。

「恋は? なんかあった?」

「うん、これ」

 ブラウスのほかにも、ショルダーバッグを見つけたのだった。それは誰かがくたくたになるまで使った物だったけど、深いブラウンが身につけると全体を引き締めてくれて、それに、単純に、かわいい。

「いいやーん、恋、こっちで写メ撮ろ」

「怒られるって」

「いいからいいから、ほら店員さんあっち行ってる」

 試着室に上がり込むとパシャッ、とスマホのカメラの音がしてぎこちない顔のわたしと、「いぇーい」と言いながらピースをした可絵と。


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